2006年、イラクで拉致され、行方不明となっていた米軍兵士の遺体が22日、シーア派武装組織からイラク政府を通じて在イラク米国大使館に引き渡されたことが明らかとなった。遺体の状況から死後数年が経過していたと見られる。米国防省も遺体の身元を確認した。
行方不明となっていたのは、2006年10月、バグダッドで拉致されたアハメッド・アル・タイエ軍曹(当時41歳)。
タイエ軍曹は、12歳で両親とともにアメリカに移民。2004年に陸軍に入隊し、アラビア語通訳としてバグダッドで任務にあたっていた。
地元メディアによると、軍曹は入隊直前にイラク人女性と結婚し、宗派抗争がもっとも激しかった2006年、バグダッドにいた妻や親族らのもとを、軍規に反するかたちで私的に数度にわたって訪れていたという。
拉致された後、親族らに身代金を要求する脅迫があり、米軍が捜索作戦をおこなったものの、安否は不明となっていた。ロイター通信は、軍曹は誘拐グループによって拉致されたのち、シーア派武装組織に引き渡された可能性があるとしている。
今回、イラク政府が仲介するかたちで米国側に遺体を引き渡したのは、シーア派武装組織、アサイブ・アハル・アル・ハク(正道者同盟)とされるが、これまでのところ公式な声明は出ておらず、背景も不明な点が多い。
マリキ首相に近い弁護士はAP通信に対し、この組織自体は拉致に関与したとは見ていない、と述べている。
同組織は、シーア派マハディ軍が一時停戦をしたのちも活動を続け、米軍施設や治安機関を狙ったロケット砲攻撃などを繰り返している。米当局は、イランの革命防衛隊やレバノンのシーア派組織ヒズボラの軍事訓練を受け、現在もイランが資金、武器を援助していると非難している。
革命防衛隊に近い組織が、この時期に不明米兵の遺体を引き渡したことには何らかの政治的な意味があるのではないか、という憶測も現地では出ている。
2003年のイラク戦争開戦以来、これまでに約4500人の米兵が死亡している。同軍曹の身元が確認されたことで、イラクで行方不明となっていた米兵としては最後となる。
【玉本英子】