<空襲はなぜ国の責任か・差別なき戦後補償を求める>

横断幕を持って入廷する原告ら
横断幕を持って入廷する原告ら

太平洋戦争末期、1万5千人が亡くなったとされる大阪大空襲などの被災者や遺族ら23人が国に謝罪と賠償を求めた「大阪空襲訴訟」の判決が昨年12月7日、大阪地裁であった。黒野功久裁判長は「補償を受けた者と原告との差異は不合理とは言えない」として請求を棄却した。
矢野宏(新聞うずみ火)

◆ 「戦争損害受忍論」には一切触れず...
今回の裁判で注目されたのが、空襲の最中であっても市民に逃げることを禁じ、消火活動を義務付けた「防空法」の存在だった。
制定されたのは37年。4年後に改正され、「空襲時の退去禁止」が規定され、空襲のとき、建物の管理者・所有者・居住者などに応急の消火活動が義務付けられていた。違反者には、6か月以下の懲役または500円以下の罰則が科せられていた。教員の初任給が55円だった時代に、だ。
「空襲被害は避けられなかった偶然の災害ではなく、国が選んだ政策の結果として生じた」という弁護団の主張はどうなるのか。

原告たちの願いは届かずーー。
原告たちの願いは届かずーー。

「原告の請求をすべて棄却する」――。大阪地裁202号法廷は静まり返った。
主文に続いて、黒野裁判長は判決要旨を読み上げた。
「軍人・軍属は国の意思を実現するために戦地に赴くなどの職務を行い、そのために被害を受けた者には補償をすべきだという見解が成り立つ。原告との差異は、明らかに不合理とは言えない」
さらに、補償されている沖縄戦被害者や原爆被曝者、引き揚げ者とも比較した上で、こう結論付けた。

「原告が空襲被害により多大な苦痛や労苦を受けてきたことは認められ、他の戦後補償を受けた者と同様に救済措置を講じるべきだとの意見もあり得る。しかし平等原則違反やその他、憲法違反があるとは言えず、国に憲法上の立法義務は認められない」
判決では、戦争損害受忍論は一言も触れなかった。防空法についても事実を認定されたが、判決に生かされることはなかった。

原告団代表世話人の安野輝子さん
原告団代表世話人の安野輝子さん

裁判長らが退廷したあとも、原告らはしばらく立ち上がれなかった。原告代表世話人の安野輝子さん(72)がハンカチを取り出し、目頭をぬぐった。
「司法に正義はないのか。この国はなんと人の命を大切にしないのだろう......」
ちなみに欧米諸国では、第2次世界大戦の戦勝国、敗戦国を問わず、軍人・軍属と民間人とを区別することなく補償を行っており(国民平等主義)、さらに自国民と外国人を区別することなく、戦争被害者に対する補償を行っている(内外人平等主義)。

判決後、原告らは控訴した。闘いの場は大阪高裁へと移ることになる。だが、原告の平均年齢78歳。先月も原告の永井佳子さん(享年79)が亡くなったばかり。まさに時間との闘いである。

国が進めた戦争によって被害を受けたにもかかわらず、民間の空襲被害者だけが放置されてきたことは明らかな差別である。
「このままでは死ねない」という原告の心からの叫びを、一人ひとりが受け止めてくれることを祈らずにはいられない。
【矢野宏:新聞うずみ火】
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