[6]「党の唯一的指導体制」
世界中のほとんどの国家では現在、内閣で提案し、議会で批准、執行する国家の意思決定機構が機能している。
しかし朝鮮では、各権力機関と部署の各々によって提議書が作成され、「金正日機関」(注1)に上程され、批准・執行されるという特殊な意思決定構造になっている。
これが一〇大原則によってがんじがらめになっている、金正日が全てを指導する体系=「党の唯一的指導体制」なのである。
この「提議書→方針」のやり方で一九七〇~八〇年代以降、政策的に成功したものは何一つない。
いや、一つだけある。成功したのは独裁政権の維持だけだろう。だがその結果が一九九〇年代の大混乱であり、現在は治癒の難しい後遺症の中にいる。
「棄てれば死、守れば勝利」という現政権のスローガンは、「党の唯一的指導体制」を手放すことも遵守することもままならない、今の制度と政権を実に上手く表している。
現政権が唱えている先軍政治と、全社会を党が組織する体系とは矛盾するのである。この矛盾は、社会を押しても引いても動かないぬかるみに突き落とした。
この唯一指導体制の問題点は、苦しい時は人民の怨みと憎悪の矛先が、唯一の指導者に向けられるということである。
社会がうまくいっている時には、「党の唯一的指導体制」は栄誉を独占し、奸臣たちが私腹を肥やす手段となるが、社会が衰退した時には、歴史と人民の審判を 一身に受けなければならない唯一の指導者に対する罠と化すのだ。これもまた、明らかに金正日の跡を継ぐことを困難にする原因になろう。
(つづく)
注1 「金正日機関」とは、必ずしも金正日個人と一致しない。例えば、国際社会で「第四夫人」といわれている金玉(キム・オク)が秘書として出入りしてい る秘書室の別名は「方針課」である。金日成が首領だった時も、その発言が教示となるためには「方針課」のような「批准機構」の承認が必要であった。そして 現在、金正日の周囲に存在するこのような意思決定機構を「金正日機関」と筆者は呼んでいる。