また同じ七月に話を聞かせてくれた咸鏡北道の四〇代の主婦はまず次のように述べた。
「誰が後継者になろうが、庶民たちには関係ないんです。誰かを後継者に立てると(上で)決めれば、その通りになるのだし。私たちは、『後継者だから選挙に行って投票しろ』と言われれば、そうするしかないんです」。
「それではあなた個人としては、金正恩が後継者になってこれまでと同じ政治を続けていくことに賛成ですか?」と尋ねてみると、きっぱりと返答した。
「私は一〇〇%反対します。わが国の政治を、韓国のように、全国民によって選挙された能力のある人がするようになってほしいんです。朝鮮の政治は、一言で言えば強制じゃないですか。誰か一人が推戴(推挙)されたら、全国民は当たり前のようにそれに服従しなければならない。
二〇代そこそこの人間がどれだけ(世間を)知っているというのでしょう。二〇代ならまだ子どもです。だから、私の考えでは、もし金正日......将軍様が死んだら......、あるいは重病説も出回っているので(指導者を)辞めるなら、(次の指導者は)人々に自由に才能を発揮するようにさせて、国民がちゃんと食べられて自由に暮らせるような政治をしてほしいです。
現在はあらゆるところで、抑えつけて頭も上げられないようにしている。自分の家(金一族)だけが全員聡明なのだから、自分たちだけが国を指導するなんておかしい。考えるだけで腹が立ちます。金正恩が後継者になれば、これからも代々ずっと抑えつけられて暮らさなければならないでしょう。
そうなれば、庶民たちは光も見ることができず、ずっと下を向いて生きていかなければなりません。もうそういうのは嫌なんです。でも、朝鮮では言いたいことは言えない。壁に耳ありです。うっかり口を滑らせて家族全員が滅亡させられるわけにはいかない。
だから、政治を変えたいと誰もが思っているけれど口に出せない。それで死んだように黙って暮らしているわけです」。
内部記者のキム・ドンチョルは、金正恩偶像化のための宣伝が始まった当初の雰囲気を次のように振り返る。
「皆その日を生きていくのが大変だから、まだピンとこない金正恩にもあんまり関心が沸かなかった。一部に『若い〝青年大将〟が後継者になるんなら、新しい感覚で政治を始めて改革開放に踏み切ってくれたらいいんだが』と、期待を口にする人もいました」。
無関心の理由は、ぎりぎりの暮らしの中で日々商売に忙しく、政治のこと、後継者のことを考える余裕がなかったからだと思われる。
(つづく >>)
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2011年12月19日の北朝鮮の官営メディアによる金正日総書記の死去発表からはや50日。北朝鮮国内では、軍の最高司令官となった金正恩氏が連日「現地指導」を行うなど、後継作業が急ピッチで進んでいる。
だが、金正恩氏が父が握っていた絶対的な独裁権力を継承できるかどうかは、まだ未知数である。
本特集では「三代世襲」を論じた過去のアーカイブ記事を通じ、金正恩氏が現在直面している、そして今後直面するであろう問題を、再び読み解いていきたい。
果たして「金正恩時代」は来るのであろうか。
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