イランの首都テヘランで、東日本大震災から1年を迎えた11日日曜、日本人女性のコミュニティーによる手作りの追悼式が行われた。
会員の多くがイラン人男性と結婚し、小さな子供を持つ日本人女性のコミュニティー『バッチェ・ミーティング(子供会)』の会合は隔週で行われており、この日は通常のプログラムに加え、追悼のための行事が組まれた。
午前11時、会場となったテヘラン中心部の住宅に、日本人の母親14人と、1歳から6歳までの子供たち14人が集まり、いつものように歌と挨拶でミーティングが始まった。今月の歌『春が来た』を子供たちが元気に歌った後、役員の田中美咲さん(32)が、「今日は、みんなにお話があります。1年前、日本で大きな地震があったことを知っていますか?」と子供たちに話しかけた。用意してあった日本地図と、週刊誌の震災特集号を広げると、子供たちが集まって覗き込んだ。
「なんでここに車があるの?」
「なんでここに水があるの?」
「水の力って何?」
次々と挙がる子供たちの素朴な疑問に、母親たちが分かりやすく答えていく。
「今も、悲しくなったり、困っている人がいっぱいいます。それでも、日本の人たちは力を合わせて、もう一度がんばろうとしています」と田中さんは結んだ。
役員の一人、加賀山直美さん(39)は、今回、追悼のためのプログラムを組んだ動機を次のように語る。
「ミーティングの日程と震災1周年が重なったため、子供たちに話す良い機会だと思いました。自分も外国にいてテレビの映像を見ただけだったし、子供もまだ小さいため、あまりショックを与えないよう、敢えて具体的に説明したことはありませんでした。でも、日本の親類が被災した人々に自宅を開放したり、ボランティアをしたりしていることを通して、折りをみて自分の子供に伝えようと思っていました」。
続いて、母親たちによるフルート、ピアノ、クラリネットの追悼演奏会が始まった。春にちなんだ様々な曲が演奏されるとともに、自宅を会場に提供した鈴木理恵さん(38)は、自ら作詞・作曲した追悼歌『愛しい人よ』を披露した。
プロのフルート奏者である鈴木さんは、昨年5月の一時帰国の際、石巻市の避難所を慰問し、この曲を演奏した。鈴木さんは、今日の追悼プログラムの目的を次のように語った。
「被災地で演奏したとき、自分の演奏にどういう意味があるのかと自問しました。疲弊しきった人々の前でフルートを吹いている自分の無力を感じました。被災地には、子供を亡くした母親や、親を亡くした子供たちもたくさんいました。彼らを前にして、自分が出来ることなどそう多くはない。せめて、今目の前にいる自分の子供を精いっぱい愛そうと考えました。ここに集まったお母さんたちにも、自分の子供が目の前にいる幸せを、決して当たり前のことではない、もっと大切なものだと感じてほしいです」。
様々な想いを胸に秘めながら、追悼演奏会は、NHK『おかあさんといっしょ』の『ありがとうの花』の大合唱で幕を閉じた。
3歳と5歳の2児の母である小林好江さん(33)は、今日の追悼プログラムを終えて、次のように述べた。
「これまで私は、地震や津波のことを自分の子供に詳しく伝えることもなく、一人で悲しみを抱えていました。だから今日こういう式があって良かった。子供たちにはまだ難しいかもしれないけど、何かが心に残ってくれればと思う」。
異国に生き、異文化の中で子育てに奮闘する彼女たちは、震災の日を通して、改めて故国と向き合い、また、我が子に日本の姿を伝えようとした。3.11は、今後もそういう日であり続けるだろう。【佐藤 彰】