農村が抱える三重苦
収穫高はと聞くと、質問をさえぎる勢いで答えが返ってきた。
「農業が上手くいく訳がないだろう。肥料は無いし、電気が無いから揚水ポンプも止まったままで、田畑に水も満足に供給できないときてる。それに去年は水害もあった。それにも増して、農民自身がやる気をすっかり失ってしまったいるのが問題だ。例えば春にひょうが降って稲が倒れてしまったとしても、それはそれで、再び立ち起こせばいいだけの話なんだが、今ではそんな気力も農民たちには残っていないんだ。一年中農作業をしたところで、手元に何も残らないんだから、やる気が出ないのも当然だよ」。
すると『分配(注3)』が無いということか、という私の質問に「全く無い」とすぐにうなづき、こう続けるのだった。
「肥料も農場に届くまでの間にお偉方が全部ピンハネしてしまうし、農薬も同じように全く入って来ない。かといって、雑草を誰かが率先してむしる訳でもない。まったく、農業が上手くいかない条件が全て揃っているようなもんだよ。化学肥料が無ければ、代わりに堆肥を作ってでも賄わなければならないところなんだが、そのためには、毎日朝三時に起きて働く必要があるんだ。そんな気力はもう無いから、農場員はゆっくりゆっくり、適当に仕事するふりをしているだけなんだよ。それでも国は、必要な分の軍糧米はきっちりと持っていく。二年前から本当に生活が悪くなったよ。俺もそろそろ鍛錬隊(注4)行きになるかもしれないな」。
張さんはまだまだ言い足りないようだった。
「うちの農場員が何を食べているか、教えてあげようか?地面に掘った穴に海水を入れて、そこに大根を保存しておくんだ。その大根を煮て食べるんだが、正視できないほどみすぼらしい食事だ。それに色が変わってしまった大根の葉っぱ、干したトウモロコシの皮を砕いたもの、豆腐の搾りカスのさらにカス、そんなものしか口にできない。春になったら、海岸に流れ着くワカメを拾って売ったりもするが、今は本当にひどい。その上、苦労して個人の畑(注5)から収穫した物も、軍が欲しいだけ持って入ってしまう。農民の生活なんてお構いなしなのが、今の世の中なんだ」。
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