◆背景に北朝鮮国内統制の強化
朝中国境の一部地域で妨害電波のために中国キャリアの携帯電話が使えなくなっているという状況は、昨年(11年)ころからしばしば報告されていた。本紙の別の記者が昨年9月に南坪鎮を訪れた際にも今回と同様の現象が起きていた。
背景には、金正恩氏への三代世襲に突き進む北朝鮮政府の焦りが見て取れる。海外の情報やニュースが国内で広がると、北朝鮮の住民は、経済悪化や人権蹂躙の原因がどこにあるのか、相対化して考えるようになり、政権が改革開放に進まないことや、独裁政治に問題があるとの認識が広まりかねない。また、長期独裁政権に国民が民主化を突き付けた、中東の「アラブの春」の情報が国内に広く伝わることも金正恩政権にとって望ましくない。
さらに中国政府の圧迫がある。中国当局は止まらない北朝鮮からの麻薬(覚醒剤)の流入に神経を強く尖らせており、公安(警察)関係者をたびたび派遣するなど、北朝鮮に国境地帯の秩序確保を迫っている。
中国キャリアの携帯電話使用に対する警戒に拍車をかけているのが、4月15日の故金日成主席生誕100周年記念日だ。「強盛大国(国家)の大門を開く」と公言してきたこの日を控え、国内に新体制への失望や疑念がさらに拡散しないよう、またそういった雰囲気が海外に漏れることを現政権が極度に嫌がっていることがよく分かる。
◆現地の中国住民は「迷惑」 それでも北内部とは通話可能
当然ながら現地南坪鎮の中国住民たちは携帯電話の代わりに固定電話を使わなければならず、多大な迷惑をこうむっている。また、今後いつになったら携帯電話が使えるようになるのかも分からないと語る。
だが現実には、今も川向こうの北朝鮮の茂山郡とは電話連絡は可能である。茂山郡の住民たちは、中心地区から離れ郊外まで出かけたり高い山に登ったりして、電波が届く場所を探して電話している。あの手この手で、茂山郡の住民は国外との連絡網を維持している。
(リ・ジンス)