この映像が撮影されたのは一一年七月、場所は平安南道のある街。市場にほど近い広場に、一〇数人の兵士がたむろしているのを、たまたま付近を通りかかったク・グァンホが目撃し、小型ビデオカメラをセットして隠し撮りを敢行した。録画された時間は三〇分余りである。目撃した時のことをク・グァンホ記者は次のように振り返る。
「痩せこけた兵士の姿は朝鮮で珍しくもなんともないけれど、集団で見るのは初めて。周囲の住民たちも驚いていた。私には二〇代前半のように見えたが、引率の将校は『若いのもいれば年がいったのもいる』と答えた。正直、ぞっとした」。
ファインダーで確認して撮影したわけではないため、映像画面が激しく揺れたり、目標の兵士たちの姿をうまく捉えられていない時間が多い。だが現場の音声は比較的明瞭に記録されていた。
ク・グァンホ記者は部隊名や行き先について引率している将校に尋ねるが、言葉を濁して答えない。地元の住民が聞き出したところによると、兵士たちは「工兵局の部隊」で、酷い栄養失調になったので、治療のために部隊から移送する途中だということであった。「工兵局」は国家の重要インフラや施設の建設に投入される部隊だ。
「警務兵(憲兵、軍人を監督する将兵)に見つからないよう隠れていろ」と、将校が兵士たちに注意を促している声も記録されていた。がりがりに痩せ細った兵士たちの姿を、一般住民の目に触れさせないよう、上部から命令されているためだと思われる。
「彼らは、あのままでは長く持たないでしょう。若い兵士の中には栄養失調で死ぬ者が少なくないんです」
と、撮影したク・グァンホ記者は言う。
以下、ビデオカメラに記録されていた映像と音声の一連の流れを再現してみる。
* * *
軍人の一団が門のそばに一五人ほど集まっている(写真1)。一目で栄養失調だということがわかる。
次のページへ ...