「まさか、あの美術館にタダで入れるなんて」と、誰もが思うに違いない。しかし、そのまさかである。
MOMAの呼び名で親しまれるニューヨーク近代美術館は、毎週金曜日の夕方、入場を無料にする。MOMAだけではない。ニューヨークでは、かなりの数の美術館が特定の曜日や時間に無料開放されている。
もちろんそんな日は混雑する。しかし、無料である。お目当ての作品だけ目指し、さっと帰ってしまっても、胸が痛まない。高い入場料を払ったからには、と、美術鑑賞とは似つかわない切羽詰った心境で、広大な美術館の隅から隅までを踏破しなくてもよいのである。
美術館のこの太っ腹のサービスは、結局は、芸術の愛好家を増やす。こうした試みの積み重ねが、街全体で芸術を支えていこうというニューヨークの気運を生んでいるに違いない。
落日が影を伸ばす頃、MOMAの無料開放は終わる。すぐれた作品を気軽に楽しんだからこそ、「また来よう」、と思うのである。
【ニューヨーク=宮崎紀秀】