公園で休日を楽しむ住民の横で休憩中の兵士たち。「庶民より兵士の方が元気がない。腹を減らしているから」と撮影者のリ・ジュンは言う。(撮影:2006年8月清津市)

 

3 解説 人民軍兵士はなぜ飢えるのか 上
石丸次郎
現在の北朝鮮でもっとも栄養状態の悪い集団は、朝鮮人民軍ではないか----筆者は今そう考え始めている。それほど、人民軍部隊の栄養失調の蔓延は深刻である。北朝鮮内部の記者たちが撮影してきた映像をつぶさに見ても、市場を彷徨うコチェビ(ホームレス)の方が、身なりは汚れていても兵士よりも肉付きが良かったりする。

なぜか。兵士の方が「食糧へのアクセス」が悪い条件にいるからだと思われる。コチェビたちは、拾い食いであれ、物乞いで施しを受けたものであれ、市場に行けば栄養を摂取する機会があるが、兵営にいる末端兵士たちの多くは、鳥の雛のように、口を開けて国が食糧を与えてくれるのを待つ以外に、「食糧へのアクセス」手段が少ないのだ。「先軍政権」の兵士たちが飢えている原因について考えてみたい。

軍入隊の仕組みと不公平
北朝鮮は徴兵制で、兵役は義務。男子は満一七歳から入隊し服務期間は一〇年、女子の場合は選抜されてだいたい三割が入隊し、服務期間は普通七年である。ただ、九〇年代後半の大飢饉前後に生まれた世代が兵役に就く時期に入ったため、飢えで死んだり、当時から始まった出産を忌避する風潮のため適齢の男子の数が相当減っているのは間違いない。そのせいだと思われるが、近年は女子の入隊率が高まっているといわれる。

北朝鮮の義務教育期間は幼稚園一年、人民学校四年、中学校六年の一一年間だ。中学校に「招募(徴兵)」担当将校が来て卒業予定生徒の予備検査をする。男子は身長一五〇センチ、四八キロが合格基準だったが、九四年八月以降は一四八センチ、四三キロになったとされる(典拠「韓国統一部北韓概要」)。

しかし皆兵制度を採る北朝鮮でも、この入隊から公平ではない。まず特権階層や裕福な家庭の子どもの場合、中学卒業後入隊せずに大学に行く。兵役免除制度もある。また、入隊後三年服務した後、部隊の推薦を受けて除隊して大学に進むコースもある。さらにどの部隊に配属されるかも、両親の政治、経済能力が大きく影響する。両親に力があれば「楽な部隊」に行くことが可能だ。在日脱北者のリ・サンボン(李相峰)氏は、九〇年代末に息子を入隊させる際、賄賂を使った。

「私は招募担当の将校二人に日本円で二万円ずつ渡して、息子を×× 道の『教導連隊』に入れた。『教導連隊』は、一般人に軍事教練する所で、民間人との接触も多く、賄賂も入ってくるし陰で商売もできる。

ずっと重労働させられる建設部隊なんかとは比べ物にならないぐらい楽だ。他に待遇がいい組織は軍直属の体育団や、軍楽隊などの芸能組織、宣伝隊、通信部隊だ。中国国境の国境警備隊も、密輸屋や脱北ブローカーから賄賂が入って実入りがよく、栄養失調になることはあまりない」
と、彼は説明する。
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