◆景山佳代子のフォトコラム
キューバ行きを思いついたきっかけに、数年前に観た映画『コマンダンテ』がある。
そこには、半世紀以上の革命を継続させるカストロ前議長のカリスマと、彼の強力なリーダーシップのもと、超大国アメリカに抵抗しながら、「理想」の国家を追求し、高水準の医療と教育を無償で保障する社会を実現させている国が描かれていた。
スクリーンに映し出されたキューバは私の憧れをかきたてるに十分なものだった。
でも同時に、映画のなかの理想化されたキューバに疑問も残った。指導者カストロ氏の姿は見えても、そこで暮らすキューバの人の「顔」が見えてこない彼らはどんな家に暮らし、どんなものを食べ、どんな風に働いているのか。なにより彼らにとってキューバで生きるとはどういうことなのか。
等身大とは言わずとも、せめてメディアによるフィルターを通すことなく、キューバを自分の目で見て、肌で感じたいと思った。
通りを歩き、すれちがい、挨拶を交わし、語り合ったキューバの人たち。彼らはキューバの空を思わせる陽気な大らかさと、孤島に取り残されたような窮屈さを、同時に生きているようだった。でも、同時にこれがキューバという世界の一片でさえないという思いもある。
この国を表現する言葉は、私にはまだ見つからない。
街をスケッチした写真を眺めながら、私が出会ったキューバのかけらをつなぎあわせ、彼らが生きる世界に少しでも触れてみたい。
※戦後日本を「風俗」という視点から考察してきた景山佳代子氏(社会学者)が、2012年2月下旬~3月下旬キューバを歩いた1か月を、生活・風俗に着目して写真でリポートしていきます。