◆景山佳代子のフォトコラム
キューバ到着の翌朝、時差ボケのせいか早朝に目覚めた私は、そのまま街を散歩することにした。
ほの白い朝陽が放射線状に街に差込み、夜から朝へと静かに移り変わる時間は、キューバでは驚くほど短く感じられる。宿を出るときは、扉を開ける音さえ気遣うような静寂に包まれていたのに、30分も経たぬうちに自動車のクラクション、ざわざわとした人の流れで、街は一気に活動を開始する。
慣れぬ街を気の向くままにまずは歩いてみる。歩道は、敷石がはがれ、窪みになっているところがここかしこにある。はずれかけのマンホールの蓋もそのままにされ、ぼんやり歩いていると穴に落ちて大怪我をしてしまいそうだ。
実際、キューバの人でも落ちて怪我をすることがあるというのだから、相当危険だ。だが、私が通りを歩く時、窪みやマンホール以上に注意を払っていたものは、犬のフンだ。とにかく、道のいたるところにフンが落ちている。
キューバの人は、相当の犬好きらしく、イヌ天国と言えるくらい、たくさんの犬が自由気ままに歩き回っていた。通りでみかける野良犬にも緊張感がまるでない。日本では最近、野良犬など見かけなくなったけれど、キューバでは野良犬が保健所に連れていかれたりはしないのだろう。
幸い、キューバ滞在の1ヶ月の間、私は一度もそれを踏まずにすんだが、ある日、夜道を連れ立って歩いていたキューバの女性が、素足にサンダルでそれを踏んでしまった。彼女は半べそだったが、彼女の夫は「これでいい運がついたよ」と笑っていた。こんな慰め方(?)は、日本と共通なのかと感心してしまった。
(景山佳代子)
※戦後日本を「風俗」という視点から考察してきた景山佳代子氏(社会学者)が、2012年2月下旬~3月下旬キューバを歩いた1か月を、生活・風俗に着目して写真でリポートしていきます。