歩道に散らかるがれきを避けて、全壊したアパートの前を通り過ぎる人たち。(2012年2月下旬 ハバナ市)

 

◆景山佳代子のフォトコラム

バルコニーが落ちてくるのはまだ序の口だ。
宿泊先の近所を散歩していた時、作業着を着た背の高いキューバ人が私に向かって手招きをしてきた。一本道のため逃げ場もなく、警戒しながら近づいていくと、「君は写真を撮っているんだろう。それならこれも撮影しとけ」と言う。
彼が指さしたのは、建物の解体工事現場でみるような、がれきの山だった。どうやら、私をカメラマンかなにかと勘違いしているようで、彼は「どうだ、いい被写体を教えてやっただろう」と誇らしげな表情で、腕組みをして私が撮影するのを待っている。

日が暮れて急いで帰るところだったけれど仕方がない。彼の「厚意」に応えるべく、がれきの写真を数枚撮った。撮り終わって「じゃ!」とその場を去ろうとすると、彼は「もっと近くに行って撮影した方がいいぞ」と、がれきのすぐそばまで行くよう指で合図する。

早く帰りたいけど、もういいや。どうせなら、世界を旅するフリーカメラマンのつもりで撮影しよう。開き直って何枚もの写真を撮った私の「仕事」に満足したのか、彼はやっとこの被写体について説明をしてくれた。
数週間ほど前、ここに建っていたアパートが突如崩れ、中にいた女性が一人大怪我をした。砂埃と黒い煙がもうもうと舞い上がり、通りはしばらく何も見えないほどだったという。

壊れた3階部分から運び出されたがれき。同じ建物の1階部分では、野菜売りの親子が普通にお店を出していた。(2012年2月28日 ハバナ市)

 

そこは解体工事現場でもなんでもない。老朽化による崩落事故の現場だったのだ。
これはさすがに地元でもちょっとした「ニュース」になったそうだが、同じような事故が起きてもおかしくない建物は街のあちこちにある。危険と隣り合わせのその場所を、家族や友人たちと過ごすかけがえのない「わが家」にして多くのキューバ人が暮らしている。(景山佳代子)
※戦後日本を「風俗」という視点から考察してきた景山佳代子氏(社会学者)が、2012年2月下旬~3月下旬キューバを歩いた1か月を、生活・風俗に着目して写真でリポートしていきます。

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