◆景山佳代子のフォトコラム
「マーニ、マニマニ」
街が柔らかなオレンジ色の時間に変わる頃、ハバナ初日の散策を満喫した私の耳にこんな声が飛び込んできた。
声の主を探して見れば、少しくたびれたTシャツに半ズボンのニイチャンが、片手に小さなバケツを提げて通りを歩いている。一瞬、ハバナ版の廃品回収かと思ったが、どうやら違う。

ハバナ市には新しい大きなショッピングモールがある。店の前は物売りやタクシーの客引きでいっぱい。私がマニマニを買ったおじさんも、よくこの店の前で売っていた(2012年2月末日 ハバナ市)

 

「マーニ、マニマニ」の声を聞きつけた人たちが、建物の中から出てきてはニイチャンを呼び止めて、バケツの中にある白い棒状のものを買っている。
一体、あれは何なのか? 好奇心を抑えられず、しばらくニイチャンのあとを尾行したが、すぐに訪れるハバナの夜の暗さを思い、この日は「マニマニ」の追跡は諦めた。

後日、通りで別のおじさんが「マニマニ」と売り声をあげているのを発見。しばらく観察していると、やはりここでもおっちゃんや子どもが「マニマニ」を買っては、すぐに包をあけてパクパクと食べている。
正体不明の「マニマニ」はどうやらお菓子らしい。白い包装紙が、私が子どもの頃、道端で買ったポン菓子を連想させた。あの甘くて、サクサクとした歯ざわりが口の中に蘇ってくる。

「マニマニ、一つ下さい!」外国人が買い求めることがあまりないらしく、マニマニのおじさんはちょっとびっくりした顔をしたあと、優しい笑顔でマニマニを渡してくれた。1MN(モネダ・ナシオナル)、日本円で約3.3円也。
おぉ、いよいよ、「マニマニ」の正体が明かされる!と一人興奮して包を開けると、中にぎっしりと詰められていたのはピーナッツのような豆だった。口の中に広がる甘味を想像していたので、少しガッカリ。

ビールのおつまみのような豆で、キューバでは大人にも子どもにも人気。 街のあちこちでマニマニは売られている。(2012年2月末日 ハバナ市)

 

それでも、もしかしたら砂糖をまぶした甘い豆かもと気を取り直し、数粒まとめて口に放り込む。しょっぱかった。
刺すような陽射しの中を歩きながら食べる「マニマニ」は、子どもの頃のポン菓子よりも、冷えたビールを恋しくさせた。
※戦後日本を「風俗」という視点から考察してきた景山佳代子氏(社会学者)が、2012年2月下旬~3月下旬キューバを歩いた1か月を、生活・風俗に着目して写真でリポートしていきます

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