大阪で、人権と平和をテーマにした二つの博物館が存続の危機に瀕している。「大阪人権博物館(通称・リバティおおさか)」と「大阪国際平和センター(同・ピースおおさか)」だ。背景には大阪市の橋下徹市長の強い意向がある。両施設に代わり、「近現代史教育館(仮称)」の新設を構想。「新しい歴史教科書をつくる会」系の学者に助言を求めるという。(矢野宏、栗原佳子/新聞うずみ火)
リバティおおさかは1985年、大阪市浪速区に開館した。日本で初めての人権に関する総合博物館として、被差別部落、在日コリアン、ウチナーンチュ、アイヌ、女性、障害者、ホームレス、性的少数者、ハンセン病回復者、HIV感染者など、国内の人権問題の資料3万点を収蔵している。大阪府と市などで設立した財団法人が運営しており、年間予算の85%が府と市の補助金だ。
リバティについて、市は「市政改革プラン」の素案(「市役所のゼロベースのグレートリセット」)で「廃止に向けて検討中」と打ち出した。敬老パス見直しや学童保育補助廃止、数々の公共施設の統廃合、文楽協会への補助金削減などとともに「切り捨て」のターゲットになった。もちろん橋下氏の一存だ。
素案が公表されたのは5月11日。橋下氏はその20日ほど前の4月20日、松井知事を伴ってリバティおおさかを視察。「おかし過ぎる!いつもの差別と人権のオンパレード」などとツイッターで批判した。
補助金打ち切りを表明した橋下氏に続き、松井知事も「市が補助金を出さないなら府だけで支えるのは無理」と追随した。リバティおおさかについては、一部の保守系議員も、「公金を投入してまで偏向した施設を維持させていく必要はない」などと以前から槍玉にあげている。
現在の展示は昨年3月にリニューアルしたばかり。それも2008年、知事時代の橋下氏が視察で、「展示が難しい」「小中学生にもわかるように」などと異議を唱えたのがきっかけだ。差別に関する展示などは、後退を余儀なくされている。
「指示して変更させた本人が、『これはアカン』と批判しているわけです。天に唾を吐く行為ではないでしょうか」。リバティおおさかの元学芸員で「あとりえ西濱」代表の太田恭治さんは怒りが収まらない。
08年の視察後、リバティおおさかでは補助金が大幅にカットされ、特別展などの実施も不可能な状況になった。そこに来てついに補助金打ち切り方針。そうなれば、運営は立ち行かなくなってしまう。
「小さな博物館ですが、アイヌから沖縄まで日本国内の人権問題を網羅している。こんな施設は外国にもありません。外国の人が見てもわかりやすいと言います。そういうプラスの面は一切語られない。橋下氏が『子どもに夢を与えるような展示に』と言うのは方便。差別に関する展示が気に入らないのでしょう」
(続く)