◆玉本英子現地報告 シリアからの避難民がイラク北西部に急増
国境を接するイラクへの脱出を試みるシリアからの避難民はあとを絶たず、国連が緊急に難民キャンプを設置しているが、急増する難民に対応が困難になってきているのが現状だ。
避難民の多くは国境の柵を密かに越えてくる。だが、イラクにとっては不法入国にあたるため、イラク側の国境警備兵に捕まり、強制送還される者も少なくない。
そんな中、シリア国境沿いの80世帯余りが暮らすシェバナ村では、村人たちがこれまで500人ものシリアからの避難民をかくまってきた。
国境までおよそ1キロ。国境ラインを示す土壁が見える丘の上に暮らすペンキ職人のアハメット・サフィールさん(28)は次のように話す。
「夜中にドアをたたく音がした。開けると若い男性たちが立っていて『シリアに戻ると殺される』と言う。悲惨な映像をテレビで見ていたから、なんとかしなければと思った」
アハメットさんは、次々とやってくる避難民を一時的に家にかくまった後、彼らをタクシーに乗せ、車で45分先にあるニナワ県ズマール市のシリア難民登録所に向かわせた。これまで25人以上の避難民を助けてきた。
ズマール市では、国境を越えてきた5000人の避難民たちがすでに登録を済ませ、ほとんどが北部のイラク・クルディスタン自治区内にある難民キャンプへ移動した。
1カ月前、シリア北東部のカミシュリから逃れてきた元シリア軍兵士セルベスト(30)は「彼らの助けがなければ、国境警備兵に捕まっていた。お金を取るようなこともせず、私たちを善意で助けてくれた村人たちは神様のような存在だ」と言う。
難民登録所のあるズマール市の市会議員、アフメット・ムラ・ハッサン氏(50)は、「イラク政府は国境警備を強化しはじめているが、人道的な保護は必要。避難民は日に日に急増している。登録所に来た避難民は今後も受け入れていく」と話した。
(イラク・ニナワ県西部・ジェバナ村、ズマール市 玉本英子)