◆ つくられた危機
石垣島を主島とする八重山諸島は自衛隊の「空白」地域。防衛省にとって配備は「悲願」といえる。一昨年策定した新防衛大綱、中期防衛力配備計画は先島地域(八重山・宮古)への軍備強化をうたい、石垣へは陸自実戦部隊の配備を狙う。特に与那国島の場合は沿岸警備隊を2015年までに配備すると閣議決定。賛否をめぐり住民が二分されているにもかかわらずだ。
その与那国島には今回、自衛隊員50人が派遣された。名目は救護班。「でも、与那国島は今回の軌道から100㌔以上も離れているんですよ」と与那国出身で、自衛隊配備に反対する女性たちでつくる「与那国島の明るい未来を願うイソバの会」の白玉敬子さん。対照的に、軌道の真下にある多良間島には、連絡要員の自衛隊員5人が派遣されただけ。「つくられた危機」であることは明らかだ。
「今回のことは自衛隊常駐に向けての地ならしでしょう」。石垣市で長年、平和運動に関わってきた潮平正道さんはそう警戒する。
ただ今回は表立って抗議の声を上げにくい状況があったという。実際に不安を感じている市民がいるからだ。石垣で初めて抗議集会が開かれたのは「発射」予告前夜の4月11日のことだった。
◆ 実弾入りの銃携行
石垣港の突堤には、入れ替わり立ち替わり市民が見学にやってきていた。「戦争中を思い出した。日本軍は怖かったよ」。そう話す高齢の男性も。八重山諸島は先の大戦で「戦争マラリア」の悲劇を生んだ。軍命によりマラリア有病地帯に強制疎開させられ、結果、全住民の1割が死亡した。軍隊への抵抗感は特に戦争を体験した世代に根強い。
石垣の部隊は今回、実戦配備中でありながら、地元業者の弁当を購入した。白玉さんは「宣撫工作の一環です。でも食中毒を出したらどうするの」と呆れ顔だ。
しかし部隊はこんな素顔も見せた。実弾を装てんした銃を携行したのだ。
「理由は『海からテロリストに狙われるかも』。つまり彼らは市民を守りにきたのではない。銃口は市民に向くかもしれないのです」。潮平さんはそう憤る。
しかも実弾入り銃携行は中山義隆市長のお墨付きだ。中山市長は一昨年2月の市長選で初当選、5期目に挑んだ革新の現職を退けた。自衛艦の寄港などを拒絶した前市長と逆を行き、いまや防空訓練は陸海空の自衛隊が参加、戦闘機まで飛び交う。中山市長は自衛隊を「誘致しない」としながらも、「協議のテーブルには就く」という立場だ。なお就任約半年の一昨年9月には尖閣諸島での中国漁船衝突事件が発生している。
◆ 空騒ぎの末に
翌4月13日朝、北朝鮮が「ミサイル」を発射した。しかし緊急情報を知らせるはずの全国瞬時警報システム(Jアラート)は作動せず、石垣市では2時間後にようやく、防災無線が発射情報を伝えたという。
そもそも、発射が迫るなかでも、米軍嘉手納基地の警戒態勢は通常レベルのままだった。それを日本政府が知らないわけがない。昭和初期、信濃毎日新聞主筆の桐生悠々は「関東大防空演習を嗤(わら)ふ」と社説に書いた。桁違いの金をつぎ込んだ現代の「大防空演習」。壮大な茶番劇の裏で高笑いする者たちがいる。
(栗原佳子/新聞うずみ火)
◆「沖縄大防空演習」を嗤ふ/PAC3石垣配備(1)