I 急速に普及する携帯電話(3)
石丸次郎/リ・ジンス
携帯電話の入手方法(承前)
[2] 電話機購入
電話機を売るのは「手電話販売所」だ。
「必要な手続きを済ませた購入申請書を持って販売所に行き、好みの機種の代金を払って公民証(身分証)で本人確認すれば晴れて憧れの携帯電話が手に入る」(チェ・ギョンオク氏)。
普通に手続きをすると、購入までに二週間からひと月ほど時間がかかるとク・グァンホ記者は言うが、ここで登場するのが申請を代行する「コガンクン」と呼ばれる仲介業者である。
「平壌に限っていえば、仲介人に頼めば申請から購入まで一日か二日で完了だ。手数料は二〇米ドルぐらい。逓信所の職員と山分けしてるのだと思う。逓 信所に行けば、仲介人はすぐに見つかる。いつも周囲をたむろしてるから。逓信所は各区域に一つしかない上、居住区域以外の逓信所では購入手続きができない ので、結局、『コガンクン』に頼んだ方が早くて便利だ」
と、ク・グァンホ記者。これは、後述する通話料金を補充して追加で支払う場合も同様で、二割程度を「コガンクン」に支払うのだという。
チェ・ギョンオク氏の住む恵山市も同様のようだ。
「『コガンクン』に払うのは人民元で一〇〇〜二〇〇元。恵山はあまり電波状態が良くなくて使用者がそんなに増えていない。ところが他地域では申請者が多過 ぎて相当待たされるもんだから、『コガンクン』が恵山まで遠征して来て手続き代行するケースが多い。携帯電話を持つなんて夢にも考えられない貧乏な老人た ちに、コメや金を少しあげれば名義を貸してくれる」。
要するに、日本でいう他人名義の「飛ばし」携帯電話が横行しているわけだ。北朝鮮では一人一台しか持てないのが原則となっているが、金さえ払えば名 義を借りて複数台持つことも可能なのだ。このような「不正使用」については後述する。ちなみに、中国に近い恵山市では中国元、平壌は米ドルが相場を表す通 貨となっている。
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