◆景山佳代子のフォトコラム
「あぁ、社会主義はやはりちがう!」と思ったかどうかは忘れたが、とにかく慣れるまでに時間がかかったのが、キューバの通貨のシステムだ。
キューバは主に外国人が使用する兌換ペソ(CUC)と、一般の人が使う人民ペソ(CUPあるいはMN)の二種類の通貨があり、1兌換ペソ=24人民ペソで両替される。(2012年2月下旬現在で1人民ペソは約3.3円)。
キューバに行く前にもガイドブックやネットなどで、兌換ペソと人民ペソの二種類の通貨があることは知っていたが、頭で理解するのと、現地で実際に使ってみるのとでは大違い。とにかく物の値段を知るのに、頭の中でどう計算してよいやら分からず混乱するのだ。
カフェらしき店の看板メニューには、「1.00」だとか「10.00」という値段が書かれているが、これだけ見ても兌換ペソか人民ペソかが判断できない。そもそも手元には両替したばかりの兌換ペソしかない。歩き回って、お腹はペコペコ。美味しそうなハンバーガーを躊躇なく買い、ガブリとかぶりついて歩いている人たちに、「一体、それはナンボやねん!?」と問いただしたくなる衝動を必死で抑え、自分自身に問いかける。
ハンバーガーが10兌換ペソだといかにも高い。日本のハンバーガーより高いじゃないか!でもキューバの人たちが普通に買っているのだから、まさか10兌換ペソということはないだろう。
だけど、私が手にしている兌換ペソで、この10と値段のつけられたハンバーガーがそもそも買えるのか? 暑さと疲労と、なにより空腹で、思わず「わけ分から~ん!」と叫びたくなる。
宿を出るときポケットに突っこんでいたのは10兌換ペソだけ。貧乏旅行で、テイクアウトのハンバーガーに10兌換ペソ払う勇気はない。鼻孔をくすぐる肉汁の香りを目一杯吸い込んで、まさに「指をくわえて」通り過ぎるしかなかった。
数日後、両替して人民ペソを使うようになってわかったことは、看板メニューのお金は、もちろん人民ペソのことを指していたということ。そしてなにより二つの通貨があらわすのは、キューバ社会の二つの世界。
華やかで消費への欲望をかき立てる「外国」人の世界と、必要最低限の衣食住を賄うための「キューバ」人の世界。二つの通貨は透明な壁となって、キューバの人たちの生活を取り囲んでいることだった。その仕組みについては次回に書きたい。
(続く)
※戦後日本を「風俗」という視点から考察してきた景山佳代子氏(社会学者)が、2012年2月下旬~3月下旬キューバを歩いた1か月を、生活・風俗に着目して写真でリポートしていきます