ハバナ旧市街オビスポ通りは、朝9時頃には人で賑わっている。両替に並ぶ行列ができ、土産物店やライブ演奏のあるレストランには、いつも外国人観光客の姿が見える(2012年2月23日オビスポ通り)

 

◆景山佳代子のフォトコラム

ハバナ旧市街オビスポ通り。
ハバナ市内で最も多くの観光客が集まるこの通りには、ブティックや本屋、陽気な演奏を楽しみながら食事のできるレストランなどが軒を連ねる。アディダスやプーマといったスポーツブランドの靴や洋服、セイコーやオメガの腕時計、他にも家電製品、台所用品などがショーウィンドーを美しく飾る。

陳列された商品には200~300兌換ぺソという値札がつき、平均月収15~16兌換ペソというキューバの人たちにはまるで別世界だ。(ちなみに2012年2月下旬現在で1兌換ペソは約80円)。
私は仲良くなったハバナっ子の2人組と、ほぼ毎日のようにこの界隈を一緒に散歩をしていた。モノが溢れたオビスポ通りを、地元住民の彼らは自分たちとは関係のないこと、といった風に歩いているように見えていた。でも、それは違った。

人気のなくなった夜のオビスポ通りを3人で歩いていた時のことだった。街灯のほの暗い灯りに、ショーウィンドーに飾られた紳士靴がうっすら照らされていた。彼らは吸い寄せられるようにその店の前に歩み寄った。
ジャージのズボンに運動靴を履いていた友人の一人が、自分の靴を指さしながら、自分にはちゃんとした靴が必要なんだ、と話し始めた。兌換ペソの値札の貼られた靴が手に入らないことは分かっている。それでも観光客のいなくなった夜のオビスポ通りで、美しくデザインされた革靴を履いている自分を夢見るように語る楽しみは、彼らだけのものだった。

兌換ペソと人民ペソの2つの通貨を容易に利用できる外国人の私には、二重通貨制度の意味は分からなかった。目の前に「資本主義」を象徴する品物があふれかえっても、人民ペソしか持たない「普通の」キューバ人は、そこにアクセスできないとされている。しかし、その建前はもう崩れている。

兌換ペソを入手できるルートをもったキューバ人は、ショッピングセンターで買い物をし、豪華な家電製品で家を飾っている。社会主義と相容れないモノの流入は、もはや外国人観光客の世界だけを囲い込めなくなっている。
そして兌換ペソを持たない私の友人もまた、それらのモノを日々の生活のなかで目にし、「いつか自分も・・・」と夢想している。
私には、資本主義的市場からキューバ社会を隔離しようとする二重通貨制度が、脆い防波堤のように見えてきた。

ハバナ旧市街とハバナ大学の中間くらいには、大きなショッピングセンターがある。一階にはケーキやファストフード、レストランなどのフードコートがあり、生鮮食品以外のものを扱っているスーパーも入っている。2階にはアディダスや化粧品、洋服店などが入る。客のほとんどはキューバ人のようだ。(2012年2月下旬 ハバナ市内)

 

※戦後日本を「風俗」という視点から考察してきた景山佳代子氏(社会学者)が、2012年2月下旬~3月下旬キューバを歩いた1か月を、生活・風俗に着目して写真でリポートしていきます

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