◆命綱断たれた停電弱者
福島県郡山市で今年3月10日、「障がいを持つ人の東日本大震災」と題するシンポジウムが開かれた。報告者の一人に日本ALS協会福島県支部理事の安田智美さん(40)がいた。ALS(筋萎縮性側索硬化症)は、全身の運動神経がだんだん侵されていく難病だ。
昨年11月に他界した安田さんの父親も患者の一人だった。報告は「難病者の3.11」と題し、実体験を織り交ぜた。
ALS患者は人工呼吸器など医療機器によって生命を維持する。たん吸引器、電動ベッド、電気毛布、「伝の心」という意思伝達装置。電気を必要とする機器に囲まれ、在宅で24時間の介護を受け、「それらが一つでも欠けたら即、命に関わるような状況」にある。
あの日、郡山も激しい揺れに見舞われた。停電、断水。電話は不通。病院や保健所などへの連絡が不可能になったうえ、ガソリン不足で訪問看護もままならない。さらにいま、放射能という見えない凶器が暗い影を落としている。
福島県では、事業所の避難やヘルパーの自主避難が続出。安田さんによれば、ALS患者は意思疎通にしても体位交換にしてもかなり微妙な調整が必要で、慣れるのに何カ月もかかるため、患者にとっては死活問題だという。
「支援者も子どもの身を守らねばならない。でも患者の側は『見捨てていくのか』と。避難先から戻るヘルパーさんもいますが、既に信頼関係が壊れてしまって、以前のように関係を築けないという相談も受けます」
では、いったいどうしたらいいのか。いまも安田さんには答えが出ない。ただ、築き上げた信頼関係が壊れてしまうのが悔しい。この原発事故によって。
福島では、「災」はなおも現在進行形だ。
(栗原佳子/新聞うずみ火)
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