第4回 「隣る」という関係性
◆テレビドキュメンタリーの番組だとこうしたテーマでは、たいていモザイクがかかりますが、子どもの顔にモザイクを一切使わなかった理由は?
刀川
テレビではできないことをしたいと思っていました。モザイクをかけるってことは、ある意味で大事な部分を失くしてるわけです。表情ひとつにしても。『隣る人』は表情を大事にしながら情緒でつないでるようなものだから、モザイクで表情を隠してしまったら、映画そのものが成立しません。
『隣る人』は「社会問題」は描いてないんです。たとえば「児童虐待」とか「児童擁護施設の抱える問題」とか。
子どもたちとの関係でいうと、中高生だったらある程度話をして理解を求めるっていうこともできるけど、マリナもムツミも撮り始めたころはまだ6歳と7歳だったんです。言葉で説明して済むという年齢ではなかったんです。
だから、職員にはなれないけど、それに近いぐらいの関係になれればと思いました。言葉で説明をして許可を得るということでなくて、存在としての信頼、つまり僕も子どもたちに「隣る」ような関係にまでなれれば、なんとか公開の道筋はみえてくるかもしれないと、それを信じてやるしかなかったんです。
◆心の多感な時期の子どもに、どのように向き合おうとしたのでしょうか?
刀川
いろいろ撮影していると、子どもに「撮らないで」って言われたことは何度もありました。この「撮らないで」のニュアンスが、関係が濃くなってくると、わかるようになるんです。踏み込まないと映画にならないし、踏み込むことは、さまざまなしんどい局面に立ち会うということです。立ち会って、かつカメラを向けるってことは、その行為が許されるか否かの瀬戸際みたいな瞬間になります。子どもたちの日常生活の中に僕がいて、撮影者として存在できるのかということが、いつも問われているわけです。
撮影するってことは居合わせることですし、居合わせてしまった上に撮影し、公開までするということ、その責任の重さはいつもいつも忘れずにいなければいけないと思っています。
(つづく) 次へ>>
社会福祉法人 光の子どもの家
1985年、可能な限り通常の建物でふつうの暮らしを子どもたちに提供する、「子どものための子どもの」施設を建設し、運営していくことを理念として創立された小舎制の児童養護施設。本園に3棟、地域に住宅2軒を借り上げて、通常の暮らしを展開している。2011年10月現在、子ども36名、大学生6名、18歳以上自立未満3名(18歳未満36名。18歳以上9名(うち大学生3名))。職員は24名。
[2011/日本/SD/85分/ドキュメンタリー]
企画: 稲塚由美子
撮影: 刀川和也、小野さやか、大澤一生
編集: 辻井潔
構成: 大澤一生
プロデューサー: 野中章弘、大澤一生
製作・配給: アジアプレス・インターナショナル
配給協力: ノンデライコ
宣伝協力: contrail
宣伝: プレイタイム
-------------------------------------------------
『隣る人』 公式ページ(映画案内・上映情報)