◆両親の反応
石丸:様々な圧力、軋轢とは、どう向き合って来たんですか?周りもうるさかったと思うんです。ヤンさんの中に葛藤が生じないはずがない。では、そんな軋轢や葛藤をどういうふうに克服して今に至ったんでしょうか?ご両親は「お前、いい加減にやめとけ」と言いませんでしたか?
ヤン:アボジ(=お父さん)はね、『ディア・ピョンヤン』観られなかったんです。アボジは倒れた後、病床で目を開けられなかったんで、テレビも何も見られなくなったんですね。だから、「アボジ、映画完成したで。ずっとカメラ回してたやろ。作品は世界中回ってて、いろんな国の人が見てくれてるよ。アボジ、結構人気者やで」という報告をしました。
石丸:二作とも韓国でも上映されましたね。
ヤン:そう。「韓国でも上映した」って言ったら、その瞬間、パチッと目が開いたんですよ、ずっと目をつぶってたのに。そして、「あいつら、韓国の人ら何て言うてた?」って。「アボジ、すごい韓国でも人気やで。アボジの思想は大嫌いやけど、アボジとお酒飲みたい言う人多いねん。アメリカにも。皆、(平壌にいる姪の)ソナはかわいいし、ピアノもうまいって言うてはるよ」と伝えたら、「お前は大胆なやっちゃなあ」って言ってました。
石丸:(笑)
ヤン:その時にね、「もう東京帰って仕事がんばるけど、ヨンヒはヨンヒのやりたいことするよ。アボジ、オモニ(¬=お母さん)に迷惑かかったり、アボジが喜ばへん仕事かもしらんけど、ごめんな」って言ったんです。そしたらアボジ、「お前が決めたことを、とっとこしたらええ」って言ったんですよ。
石丸:オモニは?
ヤン:オモニは、もうほんとに複雑なんですよね。勉強できたのに貧乏でね、中学ぐらいしか行けなかった人でしたから、私がアメリカまで行って大学院出たっていうのも、自分のやりたいことをやってるっていうのも喜んでるし、本名でテレビ出て、新聞出たりすれば切り抜いてます。応援したいし心配やし、みたいなね。「それにしても、相手が大きすぎるやないか。組織とか国とか相手に反抗してもしゃあないし、なんでそんなしんどい生き方するんや」って言うんですよ。
石丸:お母さんにしたら娘が無茶しているように見えて心配なわけだ。
ヤン:「オモニ、あたし反抗なんかしてるつもりないし、するつもりもない。別に組織や国相手に映画作ってるわけやないから、正直に自分の思ってることを言うてるだけやんか。自分の家族の話したいだけやねん。うちの家族面白いやん。家族にとっては迷惑やろうけど」って言ってます。
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※8/4から封切りされたヤン・ヨンヒ監督作品「かぞくのくに」の上映情報です。
http://kazokunokuni.com/theaters/index.php
「北朝鮮と私、私の家族」 ヤン・ヨンヒ監督インタビュー 一覧