石丸:先生たちから「組織委託しろ」と?
ヤン:はい。「組織委託すると言え」です。うちの親は一言もそんなこと言わなかったんです。オモニは後にそれを知って滅茶苦茶怒りました。まず最初は担任の先生でしょ。それから生活指導とか教頭とかが言う。詳しくは忘れましたけど。「なんでですか?」って訊くと、「そういう家庭に生まれたからや。(朝鮮に)オッパ(=お兄さん)らもおるし、アボジ(=お父さん)とオモニの意思を継げ」とか、「跡を継げ」みたいな。で、それから私は逃げる。「今は同胞もみんな大学出てるのに、高卒のイルクン(=職員)ばっかりで、総連どうするんだ、大学ぐらい出なあかん」とか、私も逃げ道いっぱい考えて反論した。それで、なんとか朝鮮大学校に行ったんですけど、そしたらもっと言われたんですよ。「組織委託せよ」と。
石丸:生徒の進路に朝鮮学校が、そこまで「組織委託」という干渉をするなんて知りませんでした。
ヤン:もう、ノイローゼ寸前でした。「組織委託」という言葉に。死んでも「はい」と言ったらアカンと思った。それ言ったら、結局「お任せします」ですからね。でも周りの友達は、もう軽く言うんですよ。「その方が正しいんやったら、組織委託します」って。
石丸:「組織委託OKです」って言ったら、人生を総連に捧げることになりかねないですね。
ヤン:そうです。私がそれ言うと(北朝鮮に渡った)オッパになっちゃうじゃないですか。上のオッパは、中学高校から言わされて来たわけで。で、私は言ったんです。「組織委託するというのは、私の人生を組織に委ねます、人生をあなたたちが決めてくださいということ。こんな無責任なことを言う人間が褒められて、これがしたいと目標がある人間がなんで責められなあかんのか、説明をしてください」って。先生に食ってかかったんですけど、先生からしたら本当に面倒くさかったでしょうね。一度オモニの前で泣いたんですよ。「組織委託せい、組織委託せいって言われるんやけど、オモニ、私が間違ってるかな?」って。そしたらオモニがびっくりして、「オッパらの時代と違うのに、そんなことまだ言うてるんかい!」って。
石丸:オモニも怒ったわけだ。
ヤン:「そこまで言うんやったら、オモニが学校に出て言うてやる」って。私は、親が学校にしゃしゃり出るの嫌なんで、オモニがそう言ってくれたら心強い、味方だと分かったんで、大学行きたいからって言って、朝大に行ったわけです。
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※8/4から封切りされたヤン・ヨンヒ監督作品「かぞくのくに」の上映情報です。
http://kazokunokuni.com/theaters/index.php
「北朝鮮と私、私の家族」 ヤン・ヨンヒ監督インタビュー 一覧