3.市場に負けた国営ナンバーワン百貨店[1]
取材 ク・グァンホ
監修 リ・サンボン(脱北者)
整理・解説 石丸次郎
市場パワー勃興の一方で、すっかり力を失い実質的な存在意義をほぼ喪失した国営商業について報告する。「北朝鮮式社会主義」商業のシンボルである平 壌(ピョンヤン)第一百貨店は、この国随一の国営百貨店だ。生前の金正日総書記が現地指導で訪れた直後の二〇一一年夏、ク・グァンホ記者のカメラがそこに 入った。映像に記録されていたのは、百貨店とは名ばかりでほとんど物を売らず、単なる陳列場と成り果てた国営商業の虚しい姿であった。
I 現場取材ルポ 商品を売らない百貨店(上)
ク・グァンホ
平壌都市再開発工事が行われ、工事車両がそこここに止めてある埃っぽい中を、私は平壌第一百貨店に向かった。昨年九月上旬のことである。奇しくもそ の一ヶ月半前の七月一五日、金正日は平壌第一百貨店で開催された「第二回商品展覧会」を現地視察して、社会主義の百貨店の発展ぶりを大きく宣伝していた。
私がここを訪れるのは久しぶりである。普段の買い物はジャンマダン(市場)ですべて用が足せるからだ。百貨店の中に入ると今日はそこそこ人がいる。電灯も 点き普段はあまり動いていないエスカレーターも稼動している。昨夏の平壌中心部の電気事情が比較的良かったからだろう。入口すぐ右側のタバコ売場の前にず らりと人が並んでいる。
年配の男性が多い。赤い制服の販売員が、勘定場に並んだ客から順に金と「供給票」(後日掲載予定の「解説」にて詳述)を受け取ってタバコを数個ずつ渡している。「龍城」という国産タバコだ。販売員に声をかけた。
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