映画「かぞくのくに」のヤン監督との対談第10弾。「私が映画を撮るのはエゴ」と言い放つ傑女の舌鋒はますます鋭くなっていく。 (聞き手 石丸次郎/アジアプレス)
◆うちの家族面白いもん
石丸:北朝鮮にいる家族のことを映画にするヤンさんの一番の動機はなんでしょうか?
ヤン:世界の人に知ってほしいとかそんなんじゃなくて、やっぱりもうエゴだけやと思います、自分の。うちの家族面白いから作りたいもん、ていうエゴ。それが、家族に迷惑かかるかもっていう心配よりも、どんどん勝っちゃってるんですよね。ドキュメンタリーを作ってる時から、いつか心の中のストーリーをフィクションにしたいと思ってました。
フィクションにするには、もっと違う意味での覚悟が必要やろうけど、自分の家族の顔や名前を出す訳ではないので、そんな心配からは解放されると思ってたんですよ。ところがどっこい(笑)、もっとしんどい。話はもっと踏み込んでるし、結局、自分でデフォルメして作ってるのに、もっとリアルになるんですよね。
石丸:「かぞくのくに」の舞台設定は全部ヤンさんが作っている訳じゃないですか。「おおー、ここ思い切ったなあ、ヤン・ヨンヒ」と感じた部分がたくさんありました。例えば、来日して「同胞協会」に行くシーン。あれはどう見ても総連本部を模したものです。
ヤン:あれは現実にはなかったシーンです。
石丸:あのシーンを総連中央の人が見たら、さぞ不愉快でしょうね。
ヤン:でも外から見ると、やっぱり変やもん、あの会館の中って。
◆自分で先に声をあげろ
石丸:それから、「あなたも、あの国も大嫌い」と妹が監視役にむかって叫ぶ場面。つまりヤンさんの言葉だ。
ヤン:(日本人から)「ほんまにあんな国に兄ちゃん行ってもうて、ヨンヒ、しんどいなあ」って言われたら「あんたが言うな」って思うんですよ。それはあんたのセリフちゃうでというのがある。多くの在日はそう思うと思う。特に総連系の人なんかは。でも一方で(北朝鮮の状況に)腹が立っているんなら、人に言われるより先に自分で言いなさいよって思うんです。
石丸:毎日のように「北朝鮮はあれが悪い、これが出来てない、怪しい」という報道が流れます。が、北朝鮮が酷いというのをわかっていても、それを日本人に言われたくないという在日は多いですね。
ヤン:多い多い。じゃあ公の場で自分で先に言えってことですよ。でも、飲み屋で愚痴ってるだけ。飲み屋の愚痴を作品にしたら面白いかもしれないな、「ここだけの話」が多くて(笑)。でも深いし痛い。深くて痛い話の方が絶対ドラマチックで面白い。
石丸:映画にできるのは当事者の在日だけでしょうね。
ヤン:私たちは普段、映画や小説で、いろんな国や社会、いろんな人の人生があることを知りますね。それって痛い話ばっかりなんですよ。在日は、大変やなあとか言いながら人の痛い話ばっかり読んで楽しんでるけど、自分たちの痛い話について外から言われたら、「うるさいな、お前らは」って文句ばっかり言ってる。それがなんか情けないんですよ。
石丸:また、ずばすばとおっしゃる・・・・・・。
ヤン:総連が情けないんですよ、はっきり言うて。うちの親が情けないねん。・・・・・・いや、うちの親責めるのは酷やと思います。あそこまで頑張ってんねんから。うちの親はマックス頑張ってると思う。でも一つ出来ないことがあるとしたら、自分で自分の痛いところを、示すことができないこと。逆に私は、オモニ(=お母さん)、アボジ(=お父さん)がやってきたのと同じ「頑張り」は出来ません。
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