統制の基本は「メディアを持たせない」
見てきたように、パソコン本体からインターネット閲覧とCDの再生、複写機能を奪うことが検閲の主な目的だ。さらにプリンターの所持にはさらに厳しい規制がある。ク・グァンホ記者はこう説明する。
「企業所や貿易会社などで必要だから、プリンターそのものは輸入品を売っている。一台四〇〇ドル程度だ。しかし個人で持つこと自体が許されず、企業所や組織でも管理が厳しい。個人が持っているのが分かれば即没収だ」。
内部記者のリ・ジュンによれば、一般企業所で業務上プリンターが必要なのは印刷所や写真館などで、登録した上で使用しているが、うるさい検査が日常 的にあるのだという。また、パソコンが登場する以前は、謄写機械やガリ版刷りの道具も国家管理の対象だったそうだ。つまり、昔もデジタル時代に入った今で も、政権がもっとも力を注いでいるのは、「民衆にメディアを持たせない」ということなのだ。一切の独立した表現や発信を許さないという、権力の一貫した強 い姿勢が、デジタル時代においても現れているわけだ。政府に都合の悪い情報が広がることや反体制宣伝の芽をつむことが目的なのは想像に難くない。
余談だが、この五年ほど間に、国内のあちこちで反体制的なビラ配布事件が発生していることが内部から報告されている。だが、韓国から気球に乗せて散 布されたものや、中国から搬入されたと思われるものを除き、編集部に伝えられたビラ事件は、直筆の手書きのケースばかりだった。悲しい話である。
その他のIT機器 MP3、MP4
携帯電話とパソコンの他にも個人に普及しているデジタル・IT機器といえば、MP3(携帯用音楽再生機)、MP4(携帯用動画再生機)がある。両方とも若者を中心に大変な人気を集めている。チェ・ギョンオク氏はこう説明する。
「英語の勉強に使う学生もいるけれど、ほとんどは、こっそり韓国のドラマや歌を楽しむのが目的。取締りも厳しくなって、当局に申告(密告)されると 家宅捜索を受けることもある。価格は性能と記録できる容量によって異なるが、MP3は一二〇人民元、MP4は二五〇から三〇〇人民元程度で買える。高いけ れどそれでも普及は大変なもので、恵山の中心区域では若者の七割くらいが持っているのではないか」。
MP3の所有は合法、MP4については〇八年頃までは取り締まられていたのだが、現在どうなっているのか確かなことはわからなかった。若者が夢中に なっている韓国の歌やドラマは、機械の中に保存されているだけで検挙される。これらは中国からSDカードやCDで密輸されてくるが、それをパソコンを使っ て機器にコピーするわけだ。MP3で韓国のK - POPを聞いている都市部のティーンもきっと大勢いるに違いない。
なおビデオカメラやデジタル写真機は、北朝鮮の中でも金さえ出せばいくらでも合法的に買える。都市部の富裕層が休日の公園でデジカメでスナップを撮影するのはありふれた光景になっている。
(この項、おわり)