記者:検閲の様子を詳しく教えてください。
チェ:一般庶民の動きにも目を光らせていますが、それよりも特徴的なのは、いつもは取り締まる側の保安員や検察などににらみを効かせているという点 です。例えば、「暴風軍団」が誰かを逮捕したら保安署に引き渡しますよね。これまでの検閲組織だったらそれで終わりなんですが、「暴風軍団」の場合は、事 件を担当する保安員が賄賂に懐柔されず、検挙した者にちゃんと罰を下したのか最後まで監視するんです。

また、過去の事件記録を調べ直すこともするそうで す。そのため、捕まえた麻薬密売人から賄賂をもらい、通常では教化刑(懲役)七年になるところを、労働鍛錬刑六ヶ月で済ませた法官(検察や裁判官)が処罰 されたそうです。

記者:それでは随分騒がしくなっているでしょうね。
チェ:恵山には「特殊機動隊」といって、春先から派遣されて来ている別の検閲部隊がいるんですよ。でも彼らはとっくに、密輸商人たちから賄賂をも らって密輸の「カバー」(後見、見逃しを指す隠語)をやるまでに転落してるんです。今度来た「暴風軍団」は、川岸に立って鴨緑江を監視し、密輸現場を見つ けるとすぐさま飛んでいって、密輸商人はもちろん、その場にいれば、この「特殊機動隊」であってもお構いなしに逮捕して行くんです。

やはり密輸商人とグル になっている国境警備隊に対しても同様で、現場に居合わせた者はすべて協力者と見なし、検閲部隊の人間の武器まで没収して連行していきます。だから市内は 静まりかえっているんですよ。いつもなら食堂で酒を飲んで騒いでいる検察や保安員たちも、下手に目立ってあらぬ疑いをかけられたらたまらないと、家から出 てきません。戦々恐々ですよ。食堂も閑散としてます。

北朝鮮政府は、「非社会主義行為」を犯罪と見なしている。だが恵山市では、一般の商売人たちは密輸された品物を市場に並べ売ることで生計を立ててい るし、保安員はそれを見逃すことで得られる賄賂で懐を潤している。街全体が「非社会主義行為」に関係することで経済が回っているというのが実情なのであ る。

中央政府当局は、こうしたいわば官民一体となったズブズブの「癒着関係」を根絶させるために、「特殊機動隊」のような検閲部隊を、次々に恵山市に送り 込んで来たのだ。ところが、新しい検閲部隊も、駐屯してしばらく活動するうちに取り込まれてしまって、結局賄賂にまみれてしまう、こんなことがずっと繰り 返されてきたのである。これは、他の国境沿線地域でも同様のようだ。

「軍人が国境地帯で数年勤務すれば一財産築ける」と北朝鮮ではよく言われる。下級軍人にとって、賄賂を受け取るチャンスの多い国境地帯は、他所では あり得ない現金収入が期待できる場所なのだ。他の検閲部隊すら取り締まることを辞さない「暴風軍団」の強硬な態度からは、こうした「ミイラ取りがミイラに なる」悪習を根絶しなければならないという当局の並々ならぬ決意を感じる。言い換えるとそれは、国境地帯が腐敗の温床になっていることへの当局の焦りだと 言えるだろう。
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