咸鏡北道会寧(フェリョン)市。朝中国境の豆満江側では最も大きな都市だ。多くの華僑が住むため、当然「プロトン」の送金が可能だ。(2010年6月 中国側よりリ・ジンス撮影)
咸鏡北道会寧(フェリョン)市。朝中国境の豆満江側では最も大きな都市だ。多くの華僑が住むため、当然「プロトン」の送金が可能だ。(2010年6月 中国側よりリ・ジンス撮影)

 

中国や韓国、日本をはじめ様々な国に住む脱北者が、北朝鮮に多額の送金をしているという事実はあまり知られていない。ましてその方法までとなるとなおさら だ。「リムジンガン」のスタッフとして中国で働いている私(パク・ヨンミン)は、長年延辺朝鮮族自治州で脱北者を取材してきて、閉ざされた北朝鮮と外界を 結ぶ様々な地下ネットワークについて知るようになった。実際にそのネットワークを通じて、北朝鮮にいる取材協力者に活動費を送金することもある。この地下 送金ルート「プロトン」について述べてみたい。

まず、私が一一年夏に出会った脱北者のチョ・ミョンファさん(四〇代女性)について話そう。彼女は延辺朝鮮族自治州のとある農村に中国朝鮮族の親戚 の助けで潜伏して長く暮らしてきたが、一一年秋に逮捕され北朝鮮に強制送還されてしまった。ところが、わずかふた月ほどして再び中国に脱出してきたのであ る。国境警備がかつてと比べ格段に厳しくなった昨今、賄賂として金を使わないと脱北して中国に渡るのは不可能だと言ってもいい。彼女はどうやって再脱北す ることができたのか、それを聞きに私はチョさんを訪ねて行った。彼女は次のように語った。

「送還されて放り込まれた保衛部(情報機関)の施設では、皆、殴る蹴るのひどい取調べを受けていましたね。私の取調べの番が来たので、中国にお金が 貯めてあることを伝えると、態度ががらりと変わり、金を出せば早めに釈放してやると言うのです。すぐ八方に連絡を取り、一万元(約一二万五〇〇〇円)を超 える金を中国から送ってもらいました。保衛部はもちろん、保安署(警察)や国境警備隊にまでばらまいたおかげで、わずか二ヶ月で中国に戻って来られたとい うわけです」。

地獄の沙汰も金次第といったところだろう。しかし、どのような方法で中国から北朝鮮に送金したのだろうか。チョさんに尋ねた。

「『プロトン』を使ったんですよ。まず、お金を送る人が、中国にいる送金業者に受取人の住所や名前、電話番号などの情報と、送金する現金を渡しま す。業者は、その情報を携帯電話(中国キャリアのもの、北朝鮮でも国境から数キロ内では使用可能)で、北朝鮮にいる仲間に伝えるんです。その人間が受取人 の所まで行って現金を渡す、という寸法です」。

実はこの「プロトン」、リムジンガン編集部でもずいぶんお世話になっている。北朝鮮内部に住む記者や取材協力者に定期的に経費を送る際にも使うし、 彼・彼女たちの家族が病気になったり、お金が急に要り用になった場合にも、「プロトン」を利用してきた。二〇〇ドル程度の小額でも利用でき、とても便利な のだ。

送金手数料は概ね三〇%。つまり、送り人が中国元一〇〇〇元を出すと、受取人の手には七〇〇元が残ることになる。%(パーセント)のことを朝鮮語で は「プロ」と言う。「トン」がお金を意味することから「プロトン」と呼ばれている、というのが私の解釈だ。直訳するとさしずめ「手数料を払って送ったお 金」といったところだろうか。
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