3.市場に負けた国営ナンバーワン百貨店[2]
取材 ク・グァンホ
監修 リ・サンボン(脱北者)
整理・解説 石丸次郎
I 現場取材ルポ 商品を売らない百貨店(下)
ク・グァンホ
「偉大なる首領・金日成同志が主体七一(一九八二)年四月六日に現地指導なさった一階」という看板の下をくぐり エスカレーターに乗って二階に上が ると、「衛生用品」売場があった。左側に女性用の生理用品がたくさん並んでいるが人はまったくいない。石鹸、シャンプーの陳列棚もある。その売場の一角に だけ大勢の人たちが列を作っている。保安員が、列に並んでいる一人のおばあさんの肩を叩いて何事か注意している。
ク:おお、すごい人ですね。あそこでは何を売っているんですか?
客の男性:ああ、衛生紙(トイレットペーパー)を売っているんだよ。
少し進むとおもちゃが陳列されている。奥の方には自転車がずらり並べられている。買う人は見当たらない。乳母車も見える。
エスカレーターで三階に上がる。看板に「繊維雑貨」とある。タオルなどが陳列されている。ここでも売場はほとんど閑散としていて、やはり一部の商品 の前だけに列をなしているが、順番のことで言い争ってかしましい。ここでも保安員が割り込みした男性を元の位置に下がらせている。靴売場にも行列ができて いる。
並んでいる人に訊くと、人民学校の子ども用の靴を一人一足ずつ国定価格二四〇ウォンで売っているそうだ。老人の姿が多いのは、朝鮮戦争参加者など、 国に功労のある「老兵」たちには優待があるからだ。保安員は並んでいる老人一人一人が「老兵」の証明証を持っているか確認している。列の中の女性がちっと も前に進まないと不満を口にする。二四〇ウォンの靴一足買うのに丸一日かかるだろう。
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