石丸:保安員の姿が目立ちます。
ク:貨幣交換した後に混乱があったからです(注1)。その時に第一百貨店で一日だけ国定価格で物を売ったんです。ものすごい人が押し寄せて、窓ガラスが割れる程の大混乱。群衆の下敷きになって死者が何人か出たそうです。それで、保安員を立たせて秩序を保っているわけです。
石丸:物を売らないなら百貨店として役割を果たせていませんね。
ク:そうですよ。陳列しているだけの宣伝用なんです。今回あらためて考えましたけれど、百貨店は「『われわれ式社会主義』は死んでいない、生きているんだ」ということを誇示するために開けているだけだと思います。
(二〇一一年一〇月中国東北部にて)
注1 金正日政権は〇九年末に通貨ウォンを一〇〇分の一に切り下げるデノミを断行。その時、一時的に無理に国定価格で販売したため国営商店に人が殺到した。朝鮮総連の機関紙「朝鮮新報」電子版(日本語ページ)二〇一〇年一月一二日の記事に、 元旦の営業について次のような記述があった。「デパートでは食品、日用品、衣類、家具、電化製品などの国産製品が貨幣交換措置後の新たな価格で販売され た。 〔中略〕市内最大の百貨店、平壌第1百貨店も朝7時半から営業を始めた。従業員らは前日夜から明け方まで開店準備に追われていた。深夜1時ごろから客が店 頭に並ぶのを見て、当初午前10時に予定していた開店時間を早めたという。 チョン・ミョンオク支配人(53)によると、昨年12月22日から1週間で440余種、400万個の商品を入荷した。その結果、第1百貨店には商品があふ れ、多くの市民でにぎわった。客足が途切れることはなく、午後3時にいったん入場が制限された。〔中略〕平壌第1百貨店では午前中に国産テレビが155 台、毛布が550枚売れた。」