商業改革にかすかな兆し
さて最後に、北朝鮮の商業政策に少し明るい(?)兆しを見つけたので触れておきたい。朝鮮中央通信などの官営メディアは、金総書記が生前最後の現地 指導を開店準備中の「光復(クァンボク)地区商業センター」で行ったと報じた。死亡二日前の一二月一五日のことだという(記事配信日も同日であり、本当の 視察日がいつなのかはわからない)。金総書記は多様な商品を見て喜んだとのことだ(一五日朝鮮中央通信)。
この商業センターは元「光復百貨店」で、スー パーマーケット型の販売方式で今年一月五日になって開業した。中国の飛海蒙信貿易有限公司と朝鮮大聖(デソン)貿易総商社との合弁企業だ。朝鮮総連の機関 紙「朝鮮新報」電子版の朝鮮語ページに、この商業センターに関する興味深い記事が出た(一月二四日付、日本語版には見当たらない)。引用してみよう。
(以下引用)
現在売場には国産品と輸入品が概して 四対六の比率で陳列されている。 価格は「市場の価格より安く、他の国営商店の価格より高く」 設定した。 差額部分を貿易総商社の経常費で解決する体系はこれまでどおりだ。
「市場価格」と 「国定価格」の中間に価格帯を設定して商品が溢れるならば、当然購買者たちが寄り集まる。 キム・ヨンオク支配人によれば 「今は商品需要をやや抑えるために一部入場を制限しているが、今後は完全に〈需要販売〉を行う」と言う。
誰でもここに来て商品を購買することができるし、売れた分だけ商品を補うというわけだ。
人々の反響は良い。売場が明るくて商品も皆きれいだ、 価格も安い、 商業センターのような商店が多ければ市場も必要ないと(人々は)言っている。
(以上引用)
この商店のオープンを報じる朝鮮中央テレビの映像には興味深いことに、おむつや哺乳瓶、カップ麺などの中国製品が映っていた。官許の商店に中国製品が並んでいる映像は極めて珍しい(市場にははるか以前から中国製品が溢れていたが)。
これらの記事は、中国と合弁で、一定度市場原理に基づく大型商店を開いたと読める。国定価格にまだこだわっている点が気がかりだが、「今後は完全に 〈需要販売〉を行う」という支配人の発言は新鮮だ。人民に計画供給するというこれまでの国営商業の「建前」の放棄と受け取れるからだ。
筆者は、北朝鮮新体制の経済政策の大きな流れは、限定的ながら改革開放の方向に進むだろうと考えている。この十数年、少しずつ「中国によってこじ開 けられてきた」現実の積み重ねがあり、朝中合弁のこの商業センターもその流れの中に位置づけることができるだろう。
また、北朝鮮当局は外資誘致によって 「国内で外貨を稼ぐ旨味」を知り始めた。その典型例は、韓国と運営する開城(ケソン)工業団地であり、このリンク先記事で詳述したエジプトのオラスコム社と合弁で始めた携帯電話事業だ。
オープンしたばかりのこの商業センターの成否と行方は不透明だが、ここに利潤が出始めれば、商業の呈をなしていない国営商店群が、市場経済方式の導入を許されて追随していく可能性があると思う。
(この項おわり)