◆景山佳代子のフォトコラム
立ち飲みは、その街に住む人の顔が見える。
私のピンチを救ってくれたことが縁で、足しげく通うようになったバーも、地元の人たちの顔が見えるエキサイティングな場所だった。
ある夜、カウンターで安いラム酒を飲みながら、顔見知りになった常連客とおしゃべりしていたときのこと。派手な化粧に鮮やかな黄色のタイトなワンピースを着た女性と、やはりバッチリメークに褐色の肌もあらわなミニのドレスを着た女性の二人組がお店に入ってきた。
キューバの女性はおシャレで、セクシーなスタイルがとてもよく似合う。そんなキューバ女性を見慣れた私にも、バーに入ってきた彼女たちが「ちょっと違う」ということはすぐにわかった。
彼女たちがしなを作りながらバーテンダーに話しかけると、彼は仏頂面でカウンターの後ろ側の棚から何やら取り出して、彼女たちに手渡した。コンドームだった。バーでコンドームが売られているのも驚きだったが、それを「ありがとう」と受け取った彼女の声を聞いて、「あっ」と気がついた。
二人組はコンドームを手に、連れ立って店の外に出た。そして、その腰や足をアピールするように立ち話をしてから、夜の闇の中へと消えていった。
仲良くなっていたバーテンダーが、私に話しかけてきた。
「わかったか?」
「うん」
そう、彼女たちは「彼ら」だったのだ。
男性らしさを尊ぶラテン文化のせいか、バーテンダーの彼は「彼女たち」のことがどうにも気に入らないという様子だった。でも私は、政治や経済の仕組みが違っていても、人間がすることってそんなに変わらないのだなあ、と気分よく残りのお酒を飲み干した。
私が「彼女たち」に出会えたのは、この一夜限りのことだった。