東日本震災後の混乱期にひっそりと起きたアスベスト飛散事故。児童の被曝が懸念されるなか、行政はほとんど隠ぺいするような対応を続けた結 果、住民から監査請求や訴訟まで起こることになった。最近明らかになり始めた「煙突」解体での飛散問題の典型を、井部正之が紹介する。(編集部)
◆罰則も適用されず野放しの現状
だが、煙突のアスベストについては設計図書に記述があり、その確認さえしていれば、本来はわかったはずなのだ。
関係者はそれぞれ発注や調査のミスを認め、反省を口にするのだが、その程度のことすらしていないずさんな工事だった。煙突の内側にアスベストが多用されていることは素人の筆者ですら知っている。アスベスト除去業者の間では常識である。それを確認すらしないのだから論外だ。
今回の飛散事故では、綾瀬市や施工業者は労働安全衛生法、大気汚染防止法、建設リサイクル法、廃棄物処理法の4つの法違反があったはずだ。しかも700人以上の児童や教職員、周辺住民が大量のアスベストに曝露した可能性すらある。
にもかかわらず、報道もほとんどされず、神奈川県や労働基準監督署は関係者を指導しただけである。これは工事が終わってからでは処分が困難との法の 不備による。あげくに飛散事故の原因をつくった綾瀬市が独自の判断で児童らの曝露調査などをする、専門家による検証委員会は不要と結論づける。無茶苦茶な 話である。
事前調査の資格制度もなく、解体時の監督署などのチェックも緩い。そのためこっそり壊してしまえば問題が発覚しにくく、現行犯でなければ処分もされないし、仮にされたとしても数十万円程度と安いため再発防止につながらない。
おまけにろくに報道もされないとなればやりたい放題だ。無論アスベスト除去が不可能な価格で発注する施主や手抜き工事をする事業者の責任は明らかだが、こうした状況を許している制度上の不備がきわめて大きい。
自治体発注による学校の解体工事ですらこのざまなのだ。今回はたまたま明らかになったが、実際には無数のアスベスト飛散事故が人知れず起こっているはずだ。