旱魃は黄海道の主要作物であるコメの作況にも大きな影響を与えたのは間違いないだろう。
「田植えの時期に雨が降らなかったため、作業計画が随分と遅れました。苗を植えてもすぐに枯れてしまいますから。協同農場で田植えを全て終えたのは8月5日になってからでした」(リム氏)。
本来ならば5月末には終わるはずの田植えが2か月以上遅れてしまったわけだ。別の人物の証言も同様だった。
「田植えができないので、代わりに大豆を植えるようにと、政府から指示がありました。金正恩同志の『配慮』で派遣されたという飛行機が運んできた大豆を植える際は、(農民でない)私も動員されるほど大がかりな作業でした」
こう語ったのは、やはり8月末に吉林省で接触することができた、黄海南道◆◆郡で病院経営に携わるパク氏だ。

旱魃の解消は6月に雨が降り始めるまで待たねばならなかった。だが、今度は台風による集中豪雨が、その後2か月にわたって断続的に続いたのである。その被害について、9月13日付けの朝鮮中央通信は次のように報じている。
「6月中旬から8月末までの間、水害のために全国で300人が死亡、600人が負傷または行方不明、住宅8万7280余棟が破壊または浸水、罹災者29万8050余人の被害が発生。農耕地12万3380町歩(約12万ha)も被害」。
この発表が、北朝鮮当局によって誇張されたものか、あるいは過小に見せようとしたものかわからないが、我々が取材した人たちは皆、大雨の被害は無視できない規模だとの認識を持っているようだった。

農村幹部のリム氏は、せっかく植えた稲も半分以上流されてしまったと証言したし、北朝鮮内部で取材を続ける具光鎬(ク・グァンホ)記者は、7月に黄海南道甕津(オンジン)郡の農村を訪れて
「田んぼが水没し、植えたばかりの稲苗が散乱していた。野菜の栽培を担当する作業班で育てていたトウガラシと茄子も、ほとんど全滅だった」
と、目撃談を語っている。
ただ、「台風が逸れた黄海南道南部の海州(ヘジュ)周辺地域では、水害被害は軽微にとどまった」という証言もあった(9月初に遼寧省でインタビューにした黄海南道の党中堅幹部キム氏)。

北朝鮮の農業は雨の影響を受けやすい。本来ならば水を十分に蓄えるべき山に、焼畑の開墾や燃料用の伐採のせいで、樹木がほとんど残っていないためで ある。まとまった雨が降るとすぐに水害になってしまう。旱魃による農業の遅れを最大限減らそうと、資金と人員を投入して行われた懸命の水撒き作業や代替作 物の植え付けも、結局、豪雨によって無駄に終わってしまったケースが多かった。
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