◆制裁煽った安倍、石原ら政治家の無責任発言
北朝鮮に対する経済制裁は小泉政権末期の2006年7月に、連続して金正日政権がミサイル発射実験をしたことに対して発動された。次いで第一次安倍政権補足直後の同年10月、初の核実験に対して発動された。
北朝鮮のミサイル・核実験に対して国際社会と連携してのこととはいえ、制裁発動は日本独自のものだった。しかも、安倍はあえて
「拉致解決への圧力も発動の理由の一つだ」
と公言して憚らなかったのである。
だが安倍の行動は日本国民の圧倒的な支持を得た。北朝鮮の無頼と不誠実に対して、多くの人が憤りを感じていたからだ。
「日本国民として怒らないと」
「もっと圧力を。ガツンとかませ」
「なめられてはだめだ」
「やられたらやりかえせ」
このような主張が、メディアのみならず、飲み屋でも風呂屋でも普通の市民の口から当たり前のように吐き出されていた。
当時の日本社会に覆っていたのは、北朝鮮に対する「報復」「懲罰」感情であった。安倍は、そのような「国民感情」を背景にして経済制裁発動に踏み切った。そして多くの人は、確かに、一時的に溜飲を下げたのである。
だが、感情で政策が決まっていくのは怖い。感情は移ろいうるものである一方、一度採った政策は変更や後戻りが簡単ではないからだ。拳を振り上げて見せた安倍は、やんやの喝采を浴びた。一方の北朝鮮は、経済制裁の解除が協議再開の条件だと主張した。
結果的に経済制裁の発動によって日朝協議は停滞し、それを動かすという名目で制裁がさらに強化され、そして事態は逆にもっと膠着するという悪循環を招来することになった。これは前回書いたとおりである。
制裁で北朝鮮は崩壊と煽った西村 眞悟と石原
さてこのように、政府が、経済制裁の法制化→発動→さらなる強化に突き進むきっかけと流れを作ったのは、「経済制裁で拉致問題は解決する」「経済制裁は効果がある」と主張した政治家たちである。その責任は重いといわざるを得ない。
今秋、北朝鮮に対する経済制裁発動から丸6年になった。解散総選挙が近いと言われる今、次期政権がこれまでの轍を踏まないためにも、「復活の兆し」が顕著な安倍をはじめ、政治家たちが、これまでどれだけいい加減なことを言っていたか、振り返っておく必要があると思う。
いい加減な発言の代表例を挙げるとすれば、西村 眞悟元民主党衆院議員、石原慎太郎東京都知事、そして安倍である。いくつかの並べてみよう。
「日本だけでも本気で制裁すれば、北朝鮮は遠くない将来に崩壊するのは必至です」(石原知事の談話。雑誌「諸君」03年7月号)。
「北朝鮮への我が国からのカネ、もの、人が止まれば、政権の運営ができない。よって、我が国が、北朝鮮の恫喝には断じて屈しないとの覚悟のもとで、以上の法案の発動すれば、北朝鮮の独裁政権は、今年中にも崩壊する。その時始めて(ママ)、拉致の被害者は、救出される」(HP『西村眞悟の時事通信』2003年9月15日付けから抜粋)
経済制裁発動→北朝鮮崩壊→拉致問題解決、というあまりの短絡さと一知半解ぶりにはあきれるばかりだ。扇動が目的の無責任発言だったとしか考えられない。(敬称略 続く)
拉致問題の前進を考える 3 (石丸次郎)>>
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