◆景山佳代子のフォトコラム
旅の楽しみといえば、なんといっても食べ物だ。
とくにガイドブックには載らないような、地元の常連客が集まる食堂やレストランを見つけると心が踊る。
私の宿の近くには、お昼時になるといつも人でごった返している「屋台」があった。
高校生やおじさん、おばさん、近所のお店で働いている人など、本当にいろんな人が集まってくる。
店の真ん中にはイケメンのお兄ちゃんがいて、彼が飛び交う注文を見事にさばいている。お兄ちゃんは後ろにある厨房の小窓にむかってオーダーを伝え、出てくる料理を客に渡していく。お昼のピーク時などは、ちょっとした「戦場」だ。
「パン・コン・ハモン(ハムサンド)!!」
「トルティージャ!!」
お皿を片手に兄ちゃんが叫ぶと、自分が注文した料理だと思った人が自己申告で皿を受け取りに行く。
店が空いているときはまだいいが、混雑している時など、うっかりしていると後から自分と同じ料理を頼んだ人に先を越されてしまう。(実際、うかうかしていた私はよく後からきた人に料理を持って行かれた)。
お金を渡して料理を受け取ってからも、まだ安心できない。
机も椅子もなく立ったままで食事をするので、皿やコップが置ける場所をうまく確保しないと、片手に料理、片手にコップをもったまま、いつまでもご飯にありつけない。
私は店を囲う手すりをカウンターがわりにしてお皿を置いた。混んでいるときは、ちょうど立ち呑みのお客さんがそうするように、できるだけたくさんの人がカウンターを使えるように体を横にする。
「いま、食べているのは何ですか?」
「これはね、豚肉と豆ご飯よ」
隣りあわせた上品なおばさんに、彼女が食べている料理の名前を聞いてみる。
「美味しいわよ」
ニコニコしながら、メニュー表を指差して、「あれよ」と教えてくれる。
「次は、それを食べます!」
なんて言いながら、ランチタイムが過ぎていく。
ちなみに定食は大体20人民ペソ(約64円)。
外国人用のレストランなら4~10兌換ペソ(約320円~800円)、少し贅沢に食べれば20兌換ペソ(約1600円)ということもあった。
私には20人民ペソの昼定食が、なによりのご馳走だった。