◆景山佳代子のフォトコラム
「ワッハッハッハッ」
またまたいつもの行きつけのバーでのこと。
カウンターで、ちびちびとお酒を飲んでいると、突然、店内に笑い声が響いた。

何ごと?と振り返ると、そこには4~5歳くらいの男の子と、その子の手を握るお父さんの姿。心なしか、お父さんの方は恥ずかしそうにうつむいている。男の子は、ポカンとお父さんを見上げている。
常連客の笑い声を背に父子が店を出て行くと、すぐにバーテンダーがニンマリと笑顔を浮かべたまま私の方に寄ってきた。
「あの男の子がさ、風船がほしい、と言ったんだよ」
どうやらさっきのお父さん、コンドームを買いに来ていたのだが、それを見た男の子が「その風船、僕もほしい」とねだったらしい。

それを聞いた常連客が大笑いしていたというわけだ。なんともおおらか。
以前にも書いたが、キューバのバーでは、コンドームが売られている。
24時間営業のコンビニがないのはもちろん、バー以外に夜遅くまで開いているお店もあまりない。コンドームを売る場所としては、バーはたしかにちょうどいいのかも。

キューバのラム酒「ハバナクラブ」を片手に、「俺の写真も撮ってくれよ」(2012年2月28日ハバナ市街にて)

 

またこのバー、ほかにも、酒を飲む以外の「客」が頻繁にやってくる。
一番多いのは、両替を頼むだけの人。「ちょっと」とバーテンダーを呼んでは、紙幣をヒラヒラみせて、小銭に替えてくれと頼んでいく。たまに「いま、小銭はないんだよ」と断ってみても、人のいいバーテンダー氏は、結局しぶしぶながら両替に応じていた。両替客が出て行くと、私のところにやってきて、「お金を換えるばっかりで、ちっとも売上になんない」とぼやくのだった。

それから、たまにやってくるのは、ラム酒の空き瓶を持ってくる少し強面のおじさん。
バーテンダーは店の棚からラム酒を取り出し、神妙な面持ちでショットのグラスに注いで、おじさんに味見をさせる。クイッと一息に飲み干し、「うむ」と頷くと受け取った瓶にトクトクとラム酒を注いでいく。ラム酒の量り売りだ。
ところ変われば、飲み屋も変わる。

変わらないのは、酒を愛する心と、酒を酌み交わす楽しみか。
悲喜交々が繰り返されながら、キューバの夜は今日も更けていく。

街角で葉巻をくゆらせるおじさん。ゆっくりと時間が過ぎていく。(2012年3月8日ハバナ市街にて)

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