衆議院議員選挙の投票を前に、ポイントとなる貧困・格差問題、橋下現象、憲法改正の三つのテーマについて、社会運動家の湯浅誠さんに聞いた。(聞き手 石丸次郎)
◆タレントのままでいい
石丸:大阪で府と市を取って、いろんなものを壊し、また新しいものを作ろうとしてる橋下徹氏に対し、恐れを抱く人もいるでしょうが、現実として、選択肢としてどーんと出てきた。そうした中で、橋下現象をどう見ていますか?
湯浅:すでに多くの指摘があるように、橋下さんは政策的には新自由主義の教科書みたいなもので、新味はありません。それ以外には一つ、政治手法というか政治家のあり方として、彼が一つ進めたところがあると思います。劇場型というのは小泉さん以来で、彼が別に新しいわけじゃなく、むしろネクスト小泉ですけど、彼のオリジナルは、タレントは政治家になってもタレントのままでいいと示したことですね。
今まではタレント上がりの政治家も、政治家になったら政治家然としなければいけないと思っていました。だけど彼は政治家になった後もタレントでいいんだってことを実践して、実際にそれで支持を落とさない。あ、なんだ、これの方がいいんだ、っていうことを示したわけです。
居酒屋でおっちゃんたちが話すように、その場の話題をいかにひきつけるかという感覚で政治をやっていいんだと。きわどい話をすれば盛り上がるし、建前なんか話してても面白くない。結局お前だってほんとは金儲けがしたいんだろ、というふうに言った方が、みんなが納得する。そういうやり方で大丈夫なんだっていうのを示した。
たとえば東国原さんは、今回国会議員になったら、前の宮崎県知事時代とは違う振る舞いをするんじゃないかと思っています。あのときは彼もそれなりに政治家然としなきゃいけないと思っていたけど、橋下さんの登場で、もうそういうことをしない方がむしろ受けるんだということがわかってしまった。だから彼の振る舞いも変わるのではないか。
◆橋下ベイビーズの面々
また、「橋下ベイビーズ」については資質の問題があります。05年の「小泉チルドレン」というのは、いろんな人がいたけれど、自民党というのはやはり50年政権与党をやってきたところなので、新人に対するグリップがそれなりに効いていました。
次の「小沢ガールズ」については、民主党はそういう意味でのマネージメント力が弱いから、確かにてんでバラバラだし、個人個人が言いたいことを言っていたし、それが分裂につながった。だけど少なくとも利権的なものに対する拒否感は強かった。だから、変な利権に手を染めることもなかった。
他方、今回の「橋下ベイビーズ」には、割と地方議員経験者が多い。しかもコテコテの旧来型、利権誘導型でやってきたような人たちです。その人たちが、今回の風に乗って国政に入ってくる可能性があります。彼らはそういう「うまい汁」の味を知っている。しかし、当然ながら国政の現場にいない橋下さんのグリップは効かない。あの人たちが、地方議会で道路を作ったり、信号を立てたりしてやってた感覚で、中央で官僚を呼びつけて、あれをやれ、これをやれって、てんでんバラバラに言い出すと、結構むちゃくちゃなことになるんじゃないかと心配しています。
(続く)
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