阪神・淡路大震災の発生からまもなく18年。神戸市長田区で営んでいた酒屋が全壊し、コンビニエンスストアに改装して再建の道を歩んできた岡田征一さん(74)、育代さん(70)夫妻に再び試練が訪れた。パトカー追跡による巻き添え事故で、長男の日出雄さん(46)が亡くなったのだ。「ようやく立ち直ったと思ったら、まさかこんな大きな悲しみが待っていたとは......」。育代さんはそう言って涙ぐんだ。 (矢野 宏)

◆ともに阪神・淡路大震災を乗り越えた息子の事故死
師走に入る前、岡田さんから届いた喪中ハガキにはこう記されていた。
<長男 日出雄 去る8月5日 46歳にて永眠致しました>

「岡田日出雄さんが事故に巻き込まれた現場」
「岡田日出雄さんが事故に巻き込まれた現場」

 

お供えと一緒にお悔やみの手紙をお送りしたところ、ご丁寧な返信が届いた。日出雄さんは原付バイクに乗っていて、パトカーに追跡された暴走車と激突して亡くなったことがつづられ、事故から4カ月たった今の気持ちが添えられていた。
<日々息子がいなくなった実感がわいてきて寂しさが募ります。どうして、その時間、その場所に遭遇したのか......。悲しく思います。裁判はものすごく疲れます。息子の命は帰ってはきません。盗難車、無免許、パトカーの追跡......。法はどう裁くのか。凛とした態度で参加しています。息子が愛したお店を守り、孫に託したいと思っています。「何のこれしき負けないわ」と空元気で頑張っています>

岡田さん夫妻は、長田神社前商店街で1950年創業の「岡田酒店」を経営していたが、阪神・淡路大震災で店が全壊した。震災後、プレハブの仮設店舗で商売を再開し被災地の復興に夢を託した地酒「福倖酒」を売り出すなど、街の酒屋として再建を模索してきた。

だが、顧客の多くは遠くの仮設住宅に入居しており、地域に人が戻ってこない。日出雄さんの助言もあって、コンビニエンスストアとして再出発したのは震災から5年あまりが過ぎてから。以来、10年以上にわたって日出雄さんは店長として従業員20人を指導し、24時間営業で店を切り盛りしてきた。

その日出雄さんが事故に巻き込まれたのは8月5日の午後10時50分ごろ。現場は、店の前の市道を500㍍ほど北に上った長田区長田町4丁目の交差点付近。原付バイクで店を出て自宅マンションに向かう途中の出来事だった。

征一さんによると、パトカーの追跡を受けていた軽乗用車が信号で止まっていた車を避けようとして反対車線にはみ出し、走ってきた日出雄さんの原付バイクと正面衝突したという。
「息子は車のボンネットにはね飛ばされ、左側に落ちたところを数百㍍にわたって引きずられ、ほぼ即死だったようです」
受話器の向こうで、征一さんはため息をこぼした。
事故までの経緯を伺うと、こうだ。

神戸市北区山田町の山麓バイパスで一時停止を無視して走り去る軽乗用車を検問中の署員が発見。待機していたパトカーが赤色灯をつけ、サイレンを鳴らして追跡したが、軽乗用車は南へ4㌔逃走し日出雄さんをはねたあと、ガードレールに激突して止まった。

署員が後部座席にいた男性(25)から事情を聞こうとしたところ、運転席にいた27歳の男は助手席に乗っていた8歳の息子を連れて逃走。20分後に近くのマンション駐車場の車の下に隠れているところを見つかり、自動車運転過失致死と道路交通法違反(ひき逃げ)などの疑いで逮捕された。軽乗用車は盗難車で、男は運転免許証を持っていなかった(つづく)
【矢野 宏/新聞うずみ火】
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