◆体罰は暴行 愛情ではない
大阪市立桜宮高校のバスケットボール部主将だった2年男子生徒が自殺して1月23日で1カ月。橋下市長からの要請を受け、市教育委員会が同校体育系2科の入試中止を決めたことで、ますます論点がずれてきた。問題の本質は何なのか――。教師による指導で長男が自殺に追い込まれた兵庫県伊丹市の西尾裕美さん(54)を訪ねた。
「体罰というと、指導される生徒の方が悪いと思われがちですよね。世間では愛のムチだとか、しつけだとか言って容認する風潮もありますが、体罰は教師による暴行です」
西尾さんはきっぱりと言い切る。
わが子を失った両親に対しては、「一生、悔やまれると思いますよ。私もそうでしたが、自分がああしていたら息子は生きていたのではないかと、今でも自分を責めていますから」と、繰り返される悲劇にため息をこぼした。
西尾さんの長男で県立伊丹高校1年生だった健司君(当時16歳)は2002年3月22日夜、親友を訪ねたあと自宅近くのマンションの屋上から飛び降りた。遺書はなかった。
その日は3学期の終業式。健司君は校内のトイレでタバコを吸っているところを教員に見つかった。夕方、学校に呼び出された西尾さんの目の前で、健司君は校長や学年主任らから厳しく叱責される。「人を裏切ることがどういうことかわかるか」「もう一回やったら学校を辞めてもらう」――。わが子の人格が否定されているようで、西尾さんは悔し涙を流したという。
「私が泣く姿を見て、健司も泣いていました。もともと人に迷惑をかけることが嫌な性格なので、自分のせいで母親につらい思いをさせたということが耐えられなかったのだと思います」
あれは指導ではなく、言葉の暴力だった――と振り返る。
処分は無期限の家庭謹慎。生きていく気力を失ったのだろうか、健司君が自らの命を絶つのはその9時間後のことだ。
次のページへ ...