1月19日、大阪市北区のキャンパスポート大阪で開かれた「うずみ火講座」(新聞うずみ火主催)。早くからTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の危険性を指摘してきたNPO法人「AMネット」理事の神田浩史さんに「いまさら聞けないTPPの話」と題し、解説してもらった。講演要旨をお届けする。
◆食糧難 深刻化する恐れ
TPPに関して危険と思うことはたくさんあるが、いくつかに絞りたい。
推進派はもとより反対派も「日本が利益を上げられないから入るべきではない」と「国益」を強調する。だが国益=短期的な利益に終始することに違和感がある。
TPPで今以上に経済のパイを大きくすることは収奪構造を強化することにつながる。貧困地域には資源がより渡らない。世界の飢餓人口は10億人近い。南北格差を助長し、食糧問題を深刻化させるおそれがある。
日本の食糧自給率は39%。先進国と呼ばれる国の中では極端に低い。それがTPPに入ると13%程度まで下がると農水省は試算する。例えば日本はコメを年間700万トン輸入しないとならなくなる。世界のコメ貿易量の20~30%を買い占める計算だ。何が起こるのか。
1993年の冷夏で日本は翌年、タイ米を大量に輸入した。まずタイの貧困層が困った。タイ政府はタイより安いベトナムから緊急輸入した。ベトナムで買っていたフィリピンがあおりを食い、ミャンマーから買った。結局、金持ち国が資源を買い占めたら、金のないところにあおりが来る。結果、飢餓が発生したのはアフリカのセネガルだった。
暮らしへの影響は挙げていくときりがない。食品の量・質はどう変わるか。遺伝子組み換えはどうなるか。日本は一部表示だが、TPPで米国が目指しているのは表示の平準化。低いところにあわせる、つまり「表示しない」に合わせろということだ。表示すると、貿易障壁になるとまで言う。 米国は原産地規制も撤廃を主張する。「米国産? 農薬大丈夫?」などと思われてしまう、だからなくせ。安全性は二の次。経済効率が高いものを作れ、と言う。
医療はどうなるのか。混合診療解禁のおそれがある。日本の皆保険制度はWHOで世界の模範といわれ、東アジアで広がり、中国も導入を決めている。しかしこの制度を崩したいというのが米国の願望。米国の医療保険が市場参入する妨げという考え方が支配的だから。
金融はどうか。目の敵にされているのが各種共済だ。厳格な審査基準を設けろと。共済は比較的安く、高齢になっても入れる。その基準が厳しくなれば入りにくくなる。いずれにしても低所得者層にとっては負担だ。
雇用面では労働法制がより規制緩和の方向に流れるおそれがある。ムチャクチャな労働環境ができていくのではという懸念がある。
自治体の入札も市場開放を求められる可能性がある。町道を作るのも役場の備品を買うのも国際入札しなければならない、と。海外の企業が安値で取るとしたら、地元の自営業が倒産してしまう懸念がある。日本の中小の町など軒並み産業の衰退になりかねない。
【栗原佳子/新聞うずみ火】