高体連問題を体験した趙さん

 

◆無償化対象外に
高校無償化制度が始まったのは10年4月。私立の高校生や他の外国人学校の生徒は年12万円を国から給付されるようになったが、朝鮮学校だけが「北朝鮮と国交がなく、指導内容がわからない」などの理由で除かれている。
その秋、当時の民主党政権は適否を判断するための基準を規定。3年の修業年限や年800時間以上の授業時数といった内容で、「具体的な教科内容は問わない」とした。

ところが、同年11月に北朝鮮が韓国を砲撃すると、朝鮮学校の適用手続きを9カ月止め、その後も結論を出さなかった。
民主党から政権を奪還した安倍内閣は、北朝鮮による拉致問題に進展がなく、教育内容などに在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の影響が及んでいるとし、高校無償化制度適用の対象から外すよう指示。北朝鮮の核実験もあり、文部科学省は、朝鮮学校を無償化の対象にしないことを決め、2月20日付で省令を改正した。

補助金支給を見送る都道府県も相次いでいる。現在、大阪や東京、宮城、埼玉、千葉、神奈川、広島の7都府県を数える。神奈川県知事は見送った理由について「核実験を強行した国の強い影響下にある学校へ補助金を続けることは、県民の理解が得られない」と説明している。
だが、それは筋違いだ。高校無償化の対象は学校ではなく、生徒個人だから。
こうした排除に対し、大阪、愛知で無償化適用を求めて提訴。全国朝鮮高級学校校長会は今後、裁判を起こすことを表明した。

◆排除の風当たり
北朝鮮が核実験を強行した2日後の2月14日、一人の在日3世の女性と再会した。趙日順(チョウ・イルスン)さん(40)。1990年6月、大阪朝鮮高級学校3年で女子バレー部の主将だった趙さんは高体連加盟問題の渦中にいた。
当時の朝鮮高級学校は、高校体育連盟への加盟が認められず、高体連が主催する大会には出場できなかった。

趙さんは大阪府高体連の役員たちの前で「私たちは悔しい思いをしました。後輩たちに道を開いてやってください」と涙ながらに訴えた。大阪で「朝鮮学校を排除するのはおかしい」という世論が起こり、全国へと広がっていった。4年後にはインターハイへの門戸が開かれたのである。

朝鮮学校の教師となった趙さんは、結婚を機に退職。二児の母となり、今は大阪・和泉市にある物流関係の商社で、本名で働いている。
核実験について「いいとは思っていません」と語ったあと、20数年前と比べて「朝鮮学校への風当たりが厳しくなった」と振り返る。

「あの時は『応援しているで』と激励されるなど、周りも温かかったです。新聞やテレビも今のように攻撃的な報道ではなく、私たちにも好意的でした」
今回の高校無償化、補助金見送りなどに対して、趙さんは「憤りもあるけれど、何でやろという疑問ばかりです。この大阪で生まれ、大阪が好きで、周りに日本人の知り合いも多い。行く学校が違うというだけで朝鮮学校が排除されなければいけないのですか。これは弱い者いじめです」。

趙さんは「何か起こればひっくり返される。絶えず不安です」と語った。
朝鮮学校に通う生徒の多くは日本で生まれ育った在日4世。私たちと同じ社会で生きる「隣人」なのだ。そんな彼らを排除する権力の刃は、いずれ私たちにも向けられる日が来る。

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