拠点にしている部屋。イラクの都市部ではネット回線も普及し、ここは無線LAN。この地区の治安は安全で、ここがイラクかと思わせるほど。ホテルに出入りするほうが見知らぬ人に付きまとわれたりすることもある。クルディスタン地域には日本企業も現地駐在事務所を開設するなどの動きが出始めている。(撮影:玉本英子・2013年3月25日撮影)

 

現在、イラク北部クルディスタン地域のアルビルに滞在している。私とともに行動している通訳は38歳の女性。彼女の家が取材拠点となっている。
ここはアンカワ地区と呼ばれ、住人のほとんどがキリスト教徒だ。市内でもっとも安全な地域といわれる。

彼女の家は一戸建てで、母親とふたり暮らし。アンカワは人口1万人ほどの小さな区域だったが、イラク戦争以後、治安悪化で各地から逃れてきたキリスト教徒が移住し、その数は4倍にふくれあがった。「アメリカ軍と同じ宗教だ」などとして、過激なイスラム武装勢力がキリスト教徒を標的にしたのだ。

治安状況が改善しつつあるイラクだが、キリスト教徒にとって将来は不安だ。シーア派政党が権勢をふるい、スンニ派勢力やクルド人政党と何かにつけて対立する。国民の数パーセントにすぎないキリスト教徒は圧倒的少数で、キリスト政党に力はない。3年前にはバグダッドの教会に武装勢力が立てこもり、銃撃戦の末、犯人が自爆し、100人を超える死傷者が出る事件も起きた。

このため多くのキリスト教徒は、欧米諸国への脱出を目指す。通訳のきょうだい6人のうち4人は、すでにアメリカやスウェーデンに渡っていった。国を捨てたわけではなく、何かあったときに避難できる先を準備しておくためでもある。そうすることでしか自分たちを守るすべがないと、彼らは感じている。通訳は母親の面倒をみるため、イラクにとどまりたいという。

昨夜は、近所に暮らす親戚たちも集まり、一緒に居間に座り込んで甘い紅茶を飲んだ。テレビでは、私が取材した政治家がニュースのインタビューに答えていて「あなたのハビビ(愛する人)が出てるわよ」とみんなにからかわれた。いまも一般家庭の電力事情は不安定だが、幸い停電はなく、私たちは11時すぎまでおしゃべりに花をさかせた。

食事も家族と一緒にとる。イラクでは昼ごはんにご馳走を食べる。この日のメインディッシュはドルマ。(トマトやナスなどの中に米や肉を詰めて炊いたもの)。(撮影:玉本英子・2013年3月25日撮影)
イラクの一般家庭の浴室。熱いお湯もでる。不便はないが、電気だけはまだ停電したりする。(撮影:玉本英子・2013年3月25日撮影)

 

【イラク・アルビル 玉本英子】

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<玉本英子のイラク報告>5 キルクーク・治安悪化に募る住民の不安
<玉本英子のイラク報告>4 キリスト教徒の通訳の家で
<玉本英子のイラク報告>3 治安改善の北部にシリア難民の姿
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