◆解除打ち切り 新聞報道で
住民間にあつれきが広がる中で、放射能に汚染された暮らしを打開しようと取り組んでいる人がいる。小国公民館長で下小国地区に住む大沼豊さん(69)。NPO法人「再生可能エネルギー推進協会」の協力を得て、地元有志とともに「霊山プロジェクト」と銘打った実証実験に取り組んでいる。
大沼さんの自宅敷地内に作られたプレハブの「バイオガス製造実証実験室」に案内してもらった。コンクリート製の貯蔵槽に設えたバイオガス製造装置、小型の貯蔵タンク。縦横に伸びるパイプ。ほとんどが手作りのミニプラントだ。汚染された有機物――出荷できない農作物や稲わらなどをメタン発酵技術によりバイオガス化し、残渣のかたちで濃縮した放射性物質のデータを取得していく計画。
地域の汚染を少しでも改善するための試みだという。
「昭和の人間として、私自身も暗黙の了解で原発を推進してきた責任があります」という大沼さん。避難勧奨地点の指定を受けたことで手にした賠償金を、このようなプロジェクトに投じている。
国や市、東電による住民説明会の席で大沼さんは「私ら夫婦は年寄りだからいい。若い母親に権利を譲りたい」と訴えた。しかし相手にもされなかった。
プレハブの「実験室」内は毎時0.5マイクロシーベルト超。これでも、国がお墨付きを与えた「安全」地点だ。震災半月後、大沼さんは外国製のガイガーカウンターを手に入れ、自宅内外を計測した。玄関は毎時10マイクロシーベルト、室内でも毎時8マイクロシーベルトあった。当時は南相馬市から逃れてきた娘一家を、原発から遠いこの場所に受け入れていたという。昨年秋、雨樋の下にかざすと、毎時230マイクロシーベルトを記録した。
昨年12月の指定解除は、新聞報道で知った。
「我々は宅配便の荷物じゃなくて、人間ですよ。紙切れ一つであっち行け、こっち行け。おかしいんじゃないでしょうか。説明会があれば思いが言えたのです。子どもたちを継続して安心できるところで保護くらいできないのか、と」
市内各地域に避難した児童たちは、巡回バスやタクシーに乗り合い、通学している。しかし、実態はどうあれ、指定が解除されたことで、新学期からは、この送迎支援も打ち切られる可能性が高いという。
「国も市も責任のなすりつけ合いばかり。もうこの地域で国、県、市を信用している者は誰一人もいないでしょう」と大沼さんは悔しさをにじませる。
指定世帯の中には、心労からか体調を崩した住民もいるという。大沼さん自身も不満の言葉をぶつけられた。周囲への気遣いから、車を買うのにも、敢えてボロボロの中古車を選んだほどだ。心ならずも被害者同士が分断させられた。その傷が、たやすく癒えるはずがない。
「『絆が大切』などと言うけれど、先祖代々の絆を守っている地域を壊した側が何を言っているのか、と思います。仲間同士で言っているんです。我々は、切り捨てられたんだ、と」
【矢野 宏、栗原佳子】
(終わり)
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