◆「戦争」が頭から離れない
問:それも一種の訓練と言えそうですね。「戦争に備えよ」という雰囲気が、日常にまん延していたのでしょうか?
リ:93年以降は、「戦争が起きる」と肌で感じたことはありませんが、毎年のように軍事訓練には参加させられました。軍事的な内容の講演会も多かったです。
高等中学校5年(編注:15歳のころ)の時には、所属する「赤い青年近衛隊(14~16歳の中学生で構成された予備兵力)」で行う軍事訓練に参加しなければならないのに、仮病を使って休みました。リュックを背負って、自炊生活を行いながら、木銃での訓練や最終日には実弾での射撃訓練もしたそうです。
問:子どもたちも訓練に参加させるんですね。全員参加なのですか?
リ:女性まで全員参加しなければなりません。毎年、朝鮮戦争が始まった6月25日から停戦協定が結ばれた7月27日までのひと月間は、戦争当時、命をかけて闘った軍人たちを扱った映画が多かった記憶があります。
ドキュメンタリーと映画を通じ、米軍がどうやって朝鮮の女性と子ども達を殺したのかを繰り返すし教えるんです。幼な心にどれだけ怖かったことか。
その他にも、訓練と講演会が毎年繰り返されるので、「戦争」というものが日常的な雰囲気になっており、個人的にも頭から離れなくなっていきました。幼かったとはいえ、戦争の映画を見ながら「戦争になったら私も闘わなければ」という意識が刷り込まれていったのです。
(つづく)
【リ・ハナさん】
1980年代半ば、北朝鮮北西部の都市で生まれる。 両親は日本からの「帰国事業」で北朝鮮に渡った在日朝鮮人2世。中国に脱出後、2005年日本に。日本入りした脱北者として初めて大学に入学。今年3月卒業した。近著に「日本に生きる北朝鮮人 リ・ハナの一歩一歩」
書籍「日本に生きる北朝鮮人 リ・ハナの一歩一歩」の詳細