夕暮れどきの商店街。多くがシャッターを閉めていく中、明かりを灯した店があった。席がひとつだけの小さな理容室。店の前には発電機が置かれ、ブロロローと轟音が響く。
軽やかな手さばきをみせるジョージさん(21)は3年前から理容師として働く。カットは100シリアポンド(約140円)、髭剃りは50ポンド(約70円)だ。
「1日に7,8人は来る。生活が苦しくても、身だしなみはきちんとしたいとみんな思っているから」と言う。

キリスト教徒が経営する理髪店。シリア人口の1割を占めるキリスト教徒は今、宗教・宗派対立におびえながら暮らす。(シリア北東部ハサカ県デレク市、3月下旬撮影:玉本英子)

 

後ろでは数人の若者たちが順番を待っていた。彼らはキリスト教徒で、イースター(復活祭)を迎えるため散髪に訪れたのだという。アサド政権についてたずねてみると、一瞬にして顔が曇った。
「アサドよりも自由シリア軍(反政府武装組織)の方がもっと怖い」と彼らは言う。

シリアのキリスト教徒の多くは、世俗主義のアサド政権を支持してきた。そのため自由シリア軍に敵とみなされ、キリスト教徒の民家が爆破されるなどの攻撃もはじまっている。現在ハサカ県南部地域は自由シリア軍によって軍事支配がすすめられており、多くのキリスト教徒たちが暮らす県北部地域にも攻め入る可能性がある。
「アサド政権が崩壊すれば、宗教、宗派対立は激化するだろう。隣国イラクのようにキリスト教徒が殺害対象になれば、僕たち全員シリアから出るしかない」
あきらめた表情をしたひとりが、そう話した。
【シリア北東部ハサカ県デレク(アラブ名アル・マリキーヤ) 玉本英子】

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