ビルマ(ミャンマー)で20年に渡って取材を続けてきたフォトジャーナリストの宇田有三さん(50)が、今年1月、ビルマ語と英語による写真集「Peoples in the Winds of Change 1993‐2012」(邦題・ビルマ 変化の中に生きる人びと)をビルマで出版した。これまでの取材エピソードなどを交えながら、宇田さんへのインタビューを3回に渡ってお届けする。(取材・整理 大村一朗)
◆「ビルマの人たちに知ってほしい」
宇田さんは1993年から現在まで20年に渡って軍政下ビルマを取材。30回を数えるビルマ取材の中で、少数民族のゲリラ部隊や田舎の人々の素朴な暮らしぶり、そして民主化運動に立ち上がる人々の姿などをフィルムに収めてきた。約10万枚の写真から選んだ193枚は、ビルマ7州7管区という広大な地理と、20年という時間を網羅するビルマ取材の集大成となっている。
この写真集の特筆すべき点は、検閲の激しかった軍事政権から民政に移管されたばかりのビルマで、外国人としては初めて、ビルマ国内のメディアによって出版された写真集であることだ。なぜビルマで出版することにしたのか。
「2011年8月に、マンダレーのインターネットカフェで、隣に座った男の子が話しかけてきたんです。彼は18歳だったんですけど、自分が生まれる前から私がビルマを取材していると知って大変驚き、昔のビルマ、マンダレーはどうだったのかと聞くんです。これから生まれる人も、彼のように軍政下を生きてきた若者も、あるいは大人たちでさえ、自分たちの国のことを意外に知らないのではないかと思いました。
なぜなら、この国には移動の制限があるからです。ビルマは大きく、各地域で多様な民族が多彩な文化を持って暮らしていることを、当のビルマ人にもっと知ってほしいと思いました。
最初はタイでビルマ語と英語による写真集の出版を考えました。ところが2012年6月に、アウンサンスーチーがヨーロッパを訪問した際の写真集がビルマで出版されたことを知り、驚きました。さっそく発行元のミャンマータイムズに打診してみたところ、最初は、ゲリラや難民といったセンシティブな写真が含まれることに難色を示していましたが、2012年8月にメディアの事前検閲がなくなったせいか、この年の12月に了解をもらうことが出来ました」
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