◆金正恩氏生誕地の江東郡で4月18銃殺説
4月中旬、首都平壌で軍人が警察官と民間人計5人を殺害して逮捕され銃殺される事件があったと、アジアプレスの北朝鮮国内の複数の取材協力者が電話で伝えてきた。(石丸次郎)
第一報が北朝鮮国内から伝えられたのは5月初旬。
「3月に平壌で軍人が複数の警官と民間人を殺害して逮捕され、4月に公開銃殺されたらしい」という噂が拡がり始めた。
アジアプレスでは、複数の地域に住む取材協力者に情報収集を依頼、北部地域の政府機関職員などから集めたところでは、現時点で把握した事件の概要は次の通りである。
・事件を起こしたのは、戦士と呼ばれる下級兵士で、最高級幹部を警護する護衛司令部8大隊に所属していた。
・3月18日に江東郡の所属部隊から外出して何らかのトラブルを起こし、交通保安員(交通警察官)4人と民間人1人を銃で射殺した。
・兵士は逮捕され、4月18日に当地で銃殺された。これは公開銃殺だったという情報もあるが、確認できていない。
その後、銃殺された兵士が所属する8大隊は、解散させられたが、崔龍海総政治局長が即決で決めたと言われている(この「8大隊」は末端の部隊名と思われ、どの部署の下の「8大隊」か不明である)。
護衛司令部は、近年護衛総局と名前を変えて、軍から党統制下に組織替えされたという説もあるが、現状は定かでない。
名前の通り、北朝鮮の最高級幹部の警護を専門にする実力組織で、過去、故金日成氏、故金正日氏の警護を主任務しており、現在は金正恩氏とその家族の警護を主任務としている。
総兵力は数万に達すると言われる精鋭部隊で、金正恩氏とロイヤルファミリーの身辺警護の他、別荘地など利用される施設に部隊が常駐している。所属兵士たちは、全国から出身成分良好で忠誠度の高い者が選抜される、北朝鮮軍組織の最高のエリート部隊だと言っていい。待遇もよく食糧難とは無縁だと言われていたが、近年は護衛司令部でも待遇悪化が現れていると言われる。
事件発生の原因であるが、北部の両江道に住む取材協力者は先月末、アジアプレスとの通話で「兵士がなぜ殺害事件を起こしたのか、まだ動機はよくわかっていない」
と述べている。待遇への不満、交通警察官とのトラブルなど個人的事件なのか、社会や体制への不満から起こったものなのか、現時点でははっきりしない。
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