戦争とは何なのか、人びとはどんな状況におかれているのか。どこか遠くの外国で起きていることは、どれも自分たちの日常の延長線にあるということを、少しでも日本の学生たちに伝えたかった。
最後に、学生たちと同じ世代であるシリア政府軍の離脱兵のインタビューを見てもらった。
「人を殺したい人間なんて誰もいない。デモ隊を撃たないと殺すと上官に命令されたから」と話す元兵士。戦闘を続ける政府軍兵士の多くは、上官に賄賂を払って逃げることのできない、貧しい家庭の子弟だという。
シリア内戦は「正義と悪の戦い」と簡単にいえるものではない。独裁政権打倒と自由を掲げて戦う反政府組織によって殺された市民もいる。被害者が次の日には加害者になる。
アフガニスタンとイラクでの戦争が始まったとき、いまの大学生は、小学校に入ったばかりの頃だった。その戦争は、いまも続いている。
「報復はやめればいい、と単純には言えるが、どうすれば止められるのか」
講演の終わりに寄せられた学生の問いに、自分も明確な答えがあるわけではない。
いったん戦争が始まると、悲しみがあり、一度、憎しみの連鎖が起きると、それを断ち切るのは容易ではない。そして、将来、日本に戦争や紛争は起きない、という保証はない。
いま世界で起きていることに関心を向け、同じ時代を生きる人びとに心を寄せることから、大切な何かが始まっていくのだと思う。
【玉本英子】
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